※この記事は『インターネットマガジン2006年4月号』(2006年2月28日発売)に掲載されたものです。文中に出てくる社名、サービス名、その他の情報は当時のものです。

[INTERVIEW]
ブログツールのイノベーター
ミナ・トロット
ベン・トロット

米シックス・アパート創設のきっかけは、自分で使っていたブログツールに満足できず、より使いやすいようにと改良を加えたMovable Typeを独自に開発したことだった。2001年10月にリリースされたそのツールのうわさは、口コミで加速度的に広まった。シックス・アパートは、その後2003年にブログのホスティングサービスであるTypePadも開始し、2005年にはコミュニティーサイトであるLiveJournalを買収して、ブログとコミュニケーションのプラットフォーム作りの会社としての地位を固めていく。現在は企業でもPRや情報共有ツールとして用いられつつあるブログの今とこれからを、共同創設者のミナ・トロット氏とベン・トロット氏、そして同社会長兼CEOのバラック・バーコビッツ氏に伺った。

聞き手:瀧口 範子(Noriko Takiguchi)
Photo:林 幸一郎(Koichiro Hayashi)


●ミナ・トロット
▲ベン・トロット
◎バラック・バーコビッツ

日本市場で注目しているのはモバイルでの利用

――2003年の会社設立に際して日本からの投資(ネオテニー)を受けたほか、初期のライセンスパートナーとして、ニフティ、NTTコミュニケーションズ、日立などの日本企業が何社も加わりましたが、そこには特に日本市場に対する目論みがあったのでしょうか。

当時日本には米国に次いで数多くのブロガーがいて、彼らを追っていくことでMovable Typeのコミュニティーは次のレベルへ進めると確信しました。また、モバイルの技術は日本の人々が次に何をするかを左右する大きな原動力になっているわけですが、そうした市場と歩調を合わせていくのは、ブログにとっても重要だと思ったのです。さらに今、日本では法人向けのブログ市場が急速に成長しているのですが、日本市場にかかわるべきだというわれわれの判断は間違っていなかったと思っています。

――日本向けのプラットフォームで、特に焦点をあてている技術は何ですか。

やはりモバイルでもPCと同様のブログ体験を提供することです。携帯電話からブログに投稿し、閲覧し、コメントを送る、あるいは電子メールで投稿できるといったことを、日本で実験しています。こうした実験は世界中でやっていることで、ノキアとは携帯電話で撮った写真をブログに投稿する技術も共同開発しました。しかし、日本では人々がブログを読むのも携帯電話ですから、テストの度合いはより深くなっています。

支持されるブログの条件は個人の姿が見えること

――ブログが騒がれ始めた1年ほど前には、ブロガーとしてだけで生計を立てるのは不可能だといわれていましたが、現在その状況は変わりましたか。

ロングテールのほんの頭部分に過ぎませんが、例外的に儲けを出しているブロガーは出てきました。たとえばヘザー・アームストロングという女性は、ドゥース・ドット・コム(Dooce.com)というブログをやっていて、そのおかげで出版契約を結び、家計を支えていくことができるようになったそうです。もちろん何100万ドルもの稼ぎがあるわけではありませんが、他のブロガーの励みになっていることは確かです。ジャーナリズムと同じで、全国的にとても有名なジャーナリストがいる一方で、ある地方紙がその地域全体を独占的に収めているようなこともあるわけです。必ずしも、ブログで確実に商売ができるとはわれわれも考えていません。

そこには明らかな経済のダイナミクスがあって、たとえばゴーカー・メディア(www.gawker.com)やウェブログズ・インク(www.weblogsinc.com)のように利用者をアグリゲートできれば計算が合うけれども、個人のブロガーが独立してやろうとするとうまくいかない。これはブログだけでなく、個人経営の印刷メディアや映画会社でも同様です。

――注目を集めるブロガーの特徴は何でしょうか。

一番大切なのは、そのブロガーが個人として強い発言をしているかどうかです。そのブログの後ろに、人格が感じられるかどうか。それは企業発信のブログであるか個人のブログであるかにかかわらず、そこに個人の姿が見えていて、その意見に共鳴できるかどうかです。ジャーナリストや作家、あるいはノンフィクション作家でも、書くのがうまくて、さらにパーソナリティーがあるのが重要なのと同じです。

ユーザー視点で考えたアイデアを製品に活かせるのが強み

――ブログツールの開発において、今もっとも大きな課題は何ですか。

ユーザーが何をしたがっているかを知り、それをどう使いやすいものとして、さらにスケーラブル(拡張可能)なものとして提供するかということです。LiveJournal買収にわれわれが関心を持ったのも、彼らが世界最大のブログサービスを運営していたことに加えて、永遠にスケーラブルなプラットフォームを独自に開発していたからです。ブログは、現在よりももっと大きな市場になります。だから、次世代のプラットフォームが必要なのです。

――すでにブログツールの開発では競合会社がいくつもありますが、その中でシックス・アパートの強みは何でしょうか。

実はそれほど技術的なことではなく、われわれが、ブログとは何か、コミュニケーションを行うとは何かといった点にフォーカスしていることだと思います。社員の中には、長い間ブログをしてきた人間もたくさんいて、次のステップがどうあるべきかに関していいセンスを持っているのです。

成功しているツールはすべて、ユーザー自身によって開発されたものだということです。自分たちで「こんなツールがあればいいなあ」と思ったことを、一般の人々のためにも開発する。そして自分たちで使ってみていいものを、一般のユーザーにとっても使いやすいものとして作ることがとても大切なことです。われわれが成功している理由は、そこにあると思います。

今後は各種サービスの統合と公開対象のコントロールが必要

――現在、個人がネットで発言をしようとするとさまざまな場があります。ブログ以外にも、SNS(ソーシャルネットワークサービス)やコミュニティーサイトなど、1人で複数のサービスを使っている人も少なくありません。これらは今後統合されていくのか、あるいは別々の場として共存していくのでしょうか。

統合されていくはずです。あまりにたくさんのネットワークを抱えているのは大変だと、誰もが思っていることでしょう。そうなると、1つのサービスで、投稿ごとにアクセスをコントロールできるような機能が必要になってきます。現在LiveJournalでは、親しい友人だけ、家族にだけ、あるいは全公開といったように、どの投稿を誰にアクセスさせるかをコントロールできるようになっています。いろいろなタイプのネットワークごとに異なったサービスを利用するのではなく、1つのサービスでグループを分けていくアクセスコントロールは、今後重要な要素になっていくと思います。

われわれが会社を始めた頃のブログ世界は、本当に小さなものでした。けれども、今や大きく拡大し、いろいろなユーザーがいます。プライバシーコントロールを設けるというのは、ブログやコミュニケーションツールが一様に向かっている方向だと思います。

私自身も最初ブログを始めた頃は、何万人もの人に読んでもらいたいと思っていました。自分もそう思っていましたし、ブロガーは誰でもそう願っているものと思っていたのです。ところが、実際にそれだけの数のアクセスが来るようになってからは、読者があまりに多すぎることに不安を感じ始めました。まず、投稿しなくてはならないとプレッシャーを感じるようになりました。また、読者の中には私が誰であるかも知らないでいろいろと批判する人も出てきました。そうなると、親しい友人だけのために書いている方がいいと思うようになります。おそらく、多くのブロガーが同じように感じているはずです。

企業にもブログは有効なツール
ブログ技術の応用も広がっている

――最近、特に新興企業などでは、従来のHTMLで書かれたホームページの代わりに、ブログを利用して会社のホームページとしているのをよく見かけます。企業サイトがブログに取って代わられるようなことが、加速的に進むと予想していますか。

これも進化の1つの現象ですが、今や静的なウェブサイトを誰もありがたく思わなくなっています。企業サイトにブログを使う場合は、新鮮なイメージを保ち、その会社のニュースを人々に伝えるためのコンテンツ管理にブログを利用しているのです。その場合も、単に「わが社もブログをやらなくては」という意識ではなく、時系列的にニュースが並ぶというブログの技術的な利点をよく心得た社員が、ブログによって何か新しい価値を企業のサイトに付加することができると信じていればうまくいくでしょう。そういう意識は、ブログの文面にちゃんと出てくるものです。

――その時系列の機能ですが、これはブログがこれだけ広まった今でも重要なものなのでしょうか。たとえば、調べもので検索をしていると、過去の投稿が見られず残念な思いをすることが多々あります。

確かにブログは時系列的な要素とは独立して成立すべきものだと思っていますし、実際その方向への開発を進めています。タグによって、あるカテゴリーの投稿を掘り起こすといった機能もその1つです。新しいから、あるいはトラックバックでリンクされているからというだけではないブログの読み方があってもいいと思います。

――企業サイト以外にも、ブログのプラットフォームが取って代われるものはあるのでしょうか。

ブログのプラットフォーム、ブログ技術、さらにブログそのものは区別して考える必要があります。いずれにしても、今後すべてのサイトがコンテントマネジメントシステム(CMS)やRSSを動力とし、さらにコメント機能を持つようになるのは確実です。そしてCMSは、いくらか時系列的なバイアスを持ちます。つまり、ブログのプラットフォームが大きなCMSから発展したように、すべてのサイトはブログプラットフォームから発展するということです。少なくとも、今後サイトがどう作られ運営されていくのかに、ブログのプラットフォームは大きな影響を与えるはずです。なぜなら、ブログを利用する方が安くて簡単だからです。とはいえ、ブログと呼ぶ限り、それは組織の中であっても個人の声や個人のアイデンティティーを表明する道具であり続けるでしょう。

――ブログ技術ということで見るとどうですか。

もし企業がマーケティングの道具として、発言者やオーナーが明確でない方法で使い始めるとすれば、それはブログ技術が別の目的のために利用されたということになるでしょう。この技術は非常に広く水平的なので、その周りに会社を組織し、さまざまなユーザーのために深度を極めていくことが可能なのです。

たとえば、今カシオでは、Movable Typeをオラクルのデータベースと組み合わせてワークグループ用の道具として全社的に利用しています。トヨタや日産、キャノン、富士ゼロックスも同様のことを計画しています。そうなると、ブログ技術はドキュメント管理の一部になるかもしれません。何かをコピーしたときに、それをメールで送ることもできるけれども、ブログサーバーがあってそこに保存しても構わないというものです。

日本の法人市場は米国よりも高い成長を見せている

――日本における法人向け市場の成長は、米国よりも速いのでしょうか。

米国では、個人的なブログの方が成長率は高いです。

ソフトバンクBBとの販売契約によって、法人向け市場専門のチームがいることも、日本で法人のブログがうまく広まった契機になっています。

――企業が消費者向けのマーケティングツールとして用いるブログはよく見かけるようになりましたが、社内ツールとして用いている例にはどんなものがありますか。

法人の中でも、特にメーカーからの注目度が高いです。ナレッジマネジメントやグループ内のコミュニケーションに利用できますから。カシオ、トヨタ、日産などのメーカーでは、苦労して会得した知識をどうやって伝えていけばいいのかという問題を抱えています。製造の現場では、ちょっとした小さな変更がいずれ大きな違いとなって表面化することがよくあります。1つの小さな工場で発見した効率化の工夫が、今年は無関係でも、来年になって世界中の工場にとって重要課題になるかもしれません。だから電子メールでもなく、ドキュメント管理でもない方法で、企業内のナレッジを保存、管理、伝達する必要があるのです。

――そうした社内ブログでは、限られた社員だけが投稿を許されているのですか。それとも誰でも投稿してもよいということになっているのでしょうか。

社外向けのブログでは、投稿者は限られています。一方、社内ブログはまだ実験段階ではありますが、誰でも投稿できるという方向に進んでいます。たとえばディズニーでは、当初はケーブル番組の制作グループ内だけで利用していましたが、今では他のグループにも広まっています。しかも、ごく日常的な用件にも使っています。たとえば、「28番カメラには気をつけろ」とか。このカメラは修理したはずなのに、撮影に出るとやっぱり壊れる。後で撮影するクルーにとっては、これは重要な情報になります。

――社内ブログを利用するのは、やはり投稿が簡単だからですか、あるいは時系列になっていることが理由ですか。

自動的にオーガナイズできること、投稿や閲覧が簡単なこと、フォーマットもわかりやすいことなどいろいろあるでしょう。しかも、最近はブログをインストールするコンサルタント(外部業者)が、米国だけでも1200人以上いて、彼らがそれぞれの企業の用途に合ったフォーマットに調整してくれるので、さらに使いやすくなっています。かつてのウェブサイトデザイン会社の役割を、現在はこうしたブログコンサルタントが果たしているのです。先ほどブログで商売が成り立つか否かという話題がありましたが、企業のためにブログ作りをするというビジネスは成長しています。

グーグルのサービスによって相乗効果が期待できる

――今やグーグルの勢力はあまりに強大ですが、グーグルとシックス・アパートの間に相乗作用や競合点はありますか。

相乗作用は明快です。グーグルが提供しているサービスは、広告から地図上の検索、比較ショッピングまで多様ですが、それをマッシュアップによってブロガーの投稿にリンクさせることができれば、使い勝手は格段によくなります。たとえば、ブログの中にある製品が出てきたら、さまざまなショッピングサイトでの価格を比較できるとか、住所が出てきたら地図がポップアップ表示されるなどです。

競合点は、それほど思い浮かびません。というのも、グーグルにはヤフーのようなメディア志向がなく、まったくのテクノロジー企業として存在しているからです。グーグルは、いってみればかつてのベル・ラボのような巨大な企業研究所であり、難しい技術的な問題を解決しようとしています。一方われわれは、プレゼンテーションやユーザーインタラクション以外には、複雑なアルゴリズムを必要とはしていません。クールなアルゴリズムは必要としていても、いわゆるテクノロジー企業ではないのです。

ブログの市場は今後も拡大
ホスティング技術の統合に注目

――現在のユーザー数は何人ですか。そして収入の内訳は。

ユーザー数というのは、閲覧数ほどには成長のインジケーターにはなりません。米国のTypePadのユニークビジター数でいえば、月間650万人です。収入は4つの分野間で等分にバランスが取れていて、TypePadのライセンスから25%、TypePadのサブスクリプションから25%、Movable Typeから25%、LiveJournalから25%です。

――3年後のシックス・アパートはどのようになっていると予想しますか。今のように独立した会社であり続けているのか、それとも巨大なネット企業の一部として統合されているのか。

将来についてはあまり心配しないようにしているのですが、ブログが大きなビジネスとして成長することは確かだと考えています。1億〜2億ドルの収入を上げる企業となっていることは想像に難くありませんし、実際その軌道にすでに乗っていると思います。その一方で、合併した方がよりよいビジネスができるような企業もあるかもしれません。ただ、1つの会社にぴたりと収まるのは難しいでしょう。なぜなら、われわれはブログ技術を水平的に広がる非常に幅広いプラットフォームとしてとらえていて、それぞれの要素が別々の企業にフィットするからです。

LiveJournalはヤフーが買収すればすばらしい価値となるし、Movable Typeはアドビが買収すれば面白いことになるかもしれません。けれども、シックス・アパートはそれ自体では純粋なメディア企業ではなく、ブログの利用を推進している企業としかいいようがありません。ですから合併は可能であっても、われわれがやっている水平的な技術をすべてカバーすることに関心を持つ企業を特定するのは難しいでしょう。ただし、現在少なくともホスティングのプラットフォームから見たときに、写真やアーカイブの管理、ページのデリバリーなど、いろいろな市場で個々に起こっているホスティングの技術をここで統合できるのではないかという発見をしました。標準化したデリバリーを、異なった市場に向けて行う。その技術は、法人向け、あるいはそれ以外の市場にも通用します。

ただ、今のところは自分たちのビジネスを確立することで精一杯です。そのうち、「お宅の会社を買うべきでしょうか?」と声をかけられることになるとは思いますが(笑)。

――ありがとうございました。

田坂 広志(Tasaka Hiroshi)

ミナ・トロット(Mena Trott)/上写真左
共同創設者および社長。ウェブデザイナーとして仕事をしていた2001年に、たまたま見つけたブログツールを利用して、自身のブログ「ダラーショット」を開始。その後失業中に、その使い勝手をもっとよくするために、夫のベン・トロットとともにブログツールの開発を手がけるようになる。Movable Typeのバーション1.0は、リリース後1時間で100件のダウンロードがあり、その後も口コミで加速度的に広まった。

ベン・トロット(Ben Trott)/上写真右
共同創設者およびCTO(最高技術責任者)。妻のミナとは、高校時代の同級生。2人で共に仕事をしていたウェブデザイン会社がドットコムバブルの崩壊後に閉鎖され、失業中の時間を使ってブログツールの開発を手がける。ブログ間でリンクをつなげ合うトラックバック機能が好評で注目を集める。社名のシックス・アパートは、ミナとベンの誕生日が6日違いであることに由来。

バラック・バーコビッツ(Barak Berkowitz)/下写真
米国法人のCEO(最高経営責任者)兼会長。アップル、ロジテックなどでビジネスに携わった後、ウェブポータルのゴーネットワークで上級副社長を務め、その後さらにワイヤレスインターネット技術開発を行うオムニスカイ社を共同創設。同社は、ISPのアースリンクに買収された。消費者向けテクノロジー製品の分野において、長年のセールス、マネージメントの経験を持つ。