イノベーションラボ


日本でインターネット関連のスタートアップを経営する4人が、6月24日から5日間、シリコンバレーを訪れた。サンブリッジ・グローバルベンチャーズとVenture Nowが企画・運営しているInnovation Weekendの特別版として実施されたもので、海外進出を視野に入れている有望な起業家を現地につれて行き、グローバル展開へのイメージを鮮明にしてもらうおうという試みである。実際にインキュベーターの前でピッチを行い、メンタリング(助言)を受けられる。

参加者の横顔

参加したのは20代後半から30代前半の4人。
杉江直哉(すぎえ・なおや)さんは、中学・高校をサンノゼで過ごし、今回の滞在先はいわば「地元」のようなものである。外資系投資銀行勤務などを経て、現在は株式会社ポケットメニューで「ポケットコンシェルジュ」というレストラン予約サービスの海外戦略を担っている。
八楽株式会社の坂西優(さかにし・すぐる)さんは、「外国人にものを売る」ことに興味があり、大学卒業後はニューヨークで日本酒の販売をしていたこともある。その後、自らウェブビジネスを立ち上げ、今はWorldJumper(ワールドジャンパー)というウェブサイトの多言語化サービスを提供している。WorldJumperは、国内では大手企業のウェブサイトに採用されているが、海外展開はこれから。サービスの特質から、様々な国で展開できる可能性がある。
U+(ユープラス)という洋服のカスタマイズサービスを手掛けているearth and one 株式会社代表の河野秀和(かわの・ひでかず)さんは、2012年、東京で行われたInnovation Weekend Grand Finaleの優勝者であり、今回の渡米は、その賞品である。ふだんは本拠地である熊本県宇城市と東京を行き来しており、シリコンバレーに行くのは今回が初めてだ。
株式会社PtmindのCOOを務める安藤高志(あんどう・たかし)さんは、ソーシャルメディアの企業に勤務した後に同社に参加。マルチデバイスに対応するウェブ解析システム「Pt engine」を提供している。ウェブ解析といえば米国にはGoogleアナリティクスをはじめとして有名なツールがすでにあるが、同社の製品は中国発の技術で、開発チームの主要メンバーも中国人。アジア市場でいくのか、それとも欧米市場を狙うのか、その見極めのヒントを得たいと考えていた。

6月24日、メンロパークにあるサンブリッジのオフィス(グローバルベンチャーハビタット)でサンブリッジUSA ヴァイスプレジデントの川鍋 仁氏は、「シリコンバレーでは一期一会。初めて会ったときに面白い、また会いたいと思ってもらえなければ二度と会うことはできない。だからこの5日間の出会いを大切にしてほしい」と挨拶して、4人を迎えた。

現地企業とピッチを取り交わすPitch Exchange

4人がピッチに立ったのは、翌25日のこと。この日は現地のスタートアップやインキュベーター、最終日に彼らのメンタリングを行うAchimedes Labsのメンバーやアレン・マイナー氏も訪れ、サンブリッジのオフィスはにぎわいを見せていた。
Pitch Exchangeは、Archimedes Labというモバイルに特化したインキュベーターの投資先スタートアップと、4人がピッチを取り交わし、互いに意見や質問をし合って、ビジネス・サービスの改良に役立てたり、交流を深めたりするプログラム。 十数名の現地スタートアップが参加するため、英語のネイティブスピーカーに混じって行うことになる。1人10分ほどの短い時間で自分たちの事業を強く印象づけなければならないが、これまで何度も練習し、内容を練り上げてきた4人は、落ち着いた様子で自分たちの事業をアピールした。

大都市型レストラン予約サービスを世界展開したい ~ポケットコンシェルジュ 杉江直哉さん


ポケットコンシェルジュは、ミシュランや食べログなどで評価が高い有名レストランの空席情報を提供し、予約までできるサービス。コンセプトは「予約が難しい人気店での食事をもっと身近に」することである。このサービスを経由して申し込むとユーザーは特典が受けられ、お店側は急なキャンセルの際の穴埋めや空いている日時の可視化ができるため、新規顧客の獲得や稼働率アップが可能になる。杉江さんは銀座や麻布の高級レストランの写真を表示しながら、東京には16万以上ものレストランがあり、ミシュランでの三ツ星レストランも多いと話し、高級レストランがひしめく大都市であれば、海外でも通用することをアピールした。
https://pocket-concierge.jp/

英語圏の人に多言語化で”Go Global”しようと呼びかける ~WorldJumper 坂西優さん


坂西さんはまず、インターネット利用者の言語分布で英語は3割程度しかなく、世界展開のためにはいかに多言語化が必要であるかを述べた。会場の聴衆はみな英語圏の人たちであるため、データを使ってアジア市場の大きさを強調し、WorldJumperを使えば中国語、日本語、韓国語のウェブサイトが簡単に制作できると説明。「Go to the Global Online Market」と呼びかけた。 また、ウェブサイトの翻訳にはいろいろな手段があるが、機械翻訳は速いが質が悪い、人手による翻訳は丁寧だが遅い、WorldJumperは、それらの「いいとこどり」をして、「品質」「コスト」「スピード」の3つを兼ね備えたサービスを実現していると強みを語り、最後に実際のウェブサイトの画面を見せてデモを行った。
http://www.worldjumper.com/

最新のヒートマップ機能とわかりやすい行動解析で差別化 ~Pt engine 安藤高志さん


安藤さんは、まず、開発チームのメンバーが中国の有名IT企業のアーキテクトであった経歴を紹介。続いて中国におけるウェブ解析ツールの現状を説明した。中国ではデータに基づいたマーケティングよりも大きな資金を投入して広告枠を買うような手法が多く、米国のGoogleアナリティクスのような圧倒的なシェアを持つ解析ツールはない。資金力のある大手はコンサルティングや高額なAdobeのツールに頼っている状況であり、シンプルでわかりやすいツールの潜在ニーズが高いことを伝えた。そして製品の特長としては、スマートフォンやタブレットなどマルチデバイス上でユーザーのタッチポイントを収集することができ、それを可視化するヒートマップ機能があること。特に今後のモバイル市場ではスマートフォンでのユーザー行動分析が重要であり、Pt engineがそれをわかりやすく表示し、ユーザービリティやサイト全体の改善に最適なツールであることをアピールした。
http://www.ptengine.jp/

カスタマイズでファッションEコマースに新市場を創る  ~U+(ユープラス) 河野秀和さん


河野さんは、「あなたは洋服を何着もっていますか?」という問いかけから始めた。多くの人が100着服を持っていても2割か3割の服だけを着回し、その他はデッドストックになっている。その眠らせている服をカスタマイズして世界に1着しかない特別な服を作ってしまうおうというのがU+のサービスである。コートやジャケットなどをリメイクするデザインパターンを用意し、ウェブの画面で注文できる。服を送ると縫製職人がパターンに基づいて新しい服に作り変えてくれる。また、その新しく生み出された服を買うこともできる。 河野さんは余剰となっているベテランの縫製職人と提携しており、その技術の高さ、丁寧さをアピールするとともに、大量消費に支えられているファッション業界の中で、これまでにない新しいEコマース市場を創り出すのだと独自のビジョンを展開した。
http://uplus.jpn.com/

国際色豊かなスタートアップの上手すぎるプレゼン

ピッチを行った中にはTechCrunchの共同創業者で黎明期からインターネットビジネスを手掛けてきたKeith Teare氏もおり、自ら立ち上げた「Just.me」というサービスをトップバッターで紹介した。また、日本企業だが米国に渡って商品化を目指している次世代パーソナルモビリティの「WHILL」から水島淳氏が参加。このほか開発プロジェクトとモバイルアプリのエンジニアやデザイナーを結びつけるTAPFAMEのSatjot Sawhney氏、地域のツアーガイドやコミュニティーを掘り起こして世界の優れた旅行ツアーを紹介するAnyRoadのJonathan & Daniel Yaffe兄弟、iPhoneを装着してだれでも簡単にギターを演奏できるようになるというgTarの創業者、Iden Beck氏が自社製ギターを片手に登場。1日中、国際色豊かな起業家によるピッチが次々に展開された。
すべてが終了した後は、ネットワーキングパーティが開催され、4人は多くの起業家と親交を深めていた。


上・左から、Keith Teare氏、 gTarのIden Beck氏
下・左から、TAPFAMEのSatjot Sawhney氏、AnyRoadのJonathan & Daniel Yaffe兄弟

事業のフォーカスやプランをチェック

6月28日、全行程の最終日がメンタリングの日である。メンターの前でもう一度プレゼンテーションを行い、事業の方向性について具体的なチェックを受ける。Achimedes LabsのCEOであるKambiz Hooshmand氏、CrunchBaseのプレジデントMatt Kaufman氏、そしてKeith Teare氏がメンターとして助言にあたった。
安藤さんのPt engineに対しては、やはり米国ではGoogleアナリティクスやオムニチュアの製品の存在があまりにも大きいため、統合マーケティングツールでいくよりも、デザインの改善に特化するといった製品価値をよりフォーカスする方向がいいのではないかとアドバイスがあった。
坂西さんには、翻訳の正確さの仕組みや、コストと品質のバランスについて確認が続いた。また、ウェブサイト以外にもアプリの多言語化についても展開できるのではないかという話もあった。Achimedes Labsは改めてゆっくり話したいと坂西さんに滞在の延長を求めるほど関心を示していた。
河野さんのU+は、モバイル関連サービスへの投資を行っている今回のメンターたちにはなかなか利用イメージが伝わらなかった。どのような客がどれくらい来ているのか、今後の顧客獲得の手段はどうするのか、そもそもカスタマイズ市場はあるのかという疑問が提示され、ニーズの裏付けや顧客分析が重要であることを知らされた。
杉江さんは、ピッチのときに質問されたOpenTableという米国の予約サービスを意識して、ポケットコンシェルジュがOpenTableとは対象が異なるハイエンドなサービスであることを改めて説明した。その独自性は伝わったが、加盟レストランの品質調査や空席情報の確認・予約方法など、地域によっては日本以上にたくさんの課題をクリアしなければならないことが指摘された。

メンタリングの模様。左からサンブリッジ グローバルベンチャーズの平石郁生氏、Achimedes LabsのCEO Kambiz Hooshmand氏、CrunchBaseのプレジデントMatt Kaufman氏

現地企業訪問と米国進出のための講義、そして起業家が大事にすべきこと

Innovation Weekend in SiliconValleyでは、このほかに、現地のスタートアップ訪問や、米国進出のためのレクチャーも用意されていた。今回はインキュベーターの500 StartupsやRocketSpace、日本にも進出しているPaaS事業者のEngine Yardといった有名企業を訪問したほか、米国内で急成長している新興企業のオフィスも訪れた。ソーシャルメディア感覚で参加し、有名企業の株を低額で売買できるLoyal3、アプリに特化したサーチエンジンのQuixey、法律や医療など専門家にオンラインで相談ができるPearl.comなど勢いのあるスタートアップの担当者に会い、直接ビジネスモデルの着眼点や、マネタイズ方法、資金調達、人材獲得戦略など情報交換を行った。
また、Plug and Play Tech Centerの一室で、シリコンバレーの全体像や、資金調達・イグジットの方法、会社設立の方法、弁護士の選び方など、米国進出にあたっての必要な知識について専門家のレクチャーを受けた。 講師の一人であるAnis Uzzaman氏によれば、シリコンバレーは世界全体から見てもいまだテクノロジー企業のメッカであり、企業買収の99%は米国、そのうち84%はシリコンバレーで行われており、大きなチャンスがあるという。しかし、一方で、トークセッションに登場したKeith Teare氏は、「最近、シリコンバレーでも投資額がデフレ―ションを起こしており、スタートアップでも短期間での成果を求められることもある」「3か月単位で支援するシードアクセラレーターの影響で小さな成功はたくさん増えたが、大きな成功が生まれにくい状況になりつつある」と実情を語った。
これまでの多くの成功と失敗を経験してきたKeith氏は、「起業家は本来、もっと先の未来から逆算して考えるもの。重要なのは3か月後のサービスのローンチよりも、5年先にどうなっているかを考えることだ」と語り、起業家にとって長期的視点を持つことが最も大切であるというメッセージを伝えた。


上・左は500Startupsの入口、右はLoyal3の説明をするChief Tecnology Officer のMatt Ho氏
下・左がRocketSpaceのコ・ワーキングスペース、右がQUIXEYのオフィス

5日間のプログラムを終えて

帰国後、4人は今回のツアーを振り返り、それぞれの成果を実感していた。
杉江さんは、「シリコンバレーで育った自分だが、今回スタートアップがたくさん生まれている所なのだと初めて肌で感じることができた」と語った。そして「顧客がいてもいなくても、米国に支社を作る価値があることはわかったので、今後はその具体化とイグジットに向けて活動をしていきたい」と抱負を述べた。
安藤さんは、行く前よりも後のほうが「法人を作る場所として米国への興味が強くなった」と話す。ウェブ解析においては米国でセカンドマーケットが厳しいという現状をいかに打破していくかが課題であり、今後国内およびアジア市場を狙うにあたり、自分たちの製品価値のフォーカスをより強めていくことが重要だということを認識できた。
河野さんは、「自分の英語力不足のせいで言いたいことが伝わらなかった」と振り返った。しかし、「熊本にいると情報不足で確信が持てないことも多かったが、今回の経験で視野が広がったことは良かった。ちょうど新サービスの展開を控えており、今後のために参考になった」と話した。
坂西さんは、特に印象に残っていることを3つ挙げた。1つはアプリに対する質問が多く、アプリの多言語化のニーズを確信したこと。2つ目は大御所であるにもかかわらず、自分たちと変わらずスマートフォンを片手に新サービスを語るKeith氏の熱意。そして3つ目は、余興として行われた「Karaoke Pitch」(カラオケ・ピッチ)というイベントに参加して、自分のスピーチが会場を沸かせたことである。スマートフォン時代には片手で食べる「モバイルフード」のブームが来るという話だが、グローバル展開には外国人が面白いと思うツボを探すことも重要かもしれない。 こうして一期一会を満喫した4人であった。

グローバル志向のあるスタートアップを後押し

Go Global!を掲げて起業家支援を行っているサンブリッジ グローバルベンチャーズでは、今後も引き続きグローバル志向でポテンシャルの高い起業家の海外展開に繋がるような実践的なプログラムを行う予定だ。 特にモバイルインフラが世界で均一になりつつある現在は、大きなチャンスであり、日本のスタートアップのアイデアは海外に出ていけるだけのポテンシャルがあるが、それをせずに日本市場にとどまっていては大きな投資も得られない。言語の壁を破って海外投資家の目に留まる機会を少しでも増やしていこうと、同社では考えている。
(※写真協力:Innovation Weekend)
サンブリッジ グローバルベンチャーズ
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Venture Now

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