米国出版社協会(AAP;Association of American Publishers)は2016年通期の出版市況レポートを発表した。
このレポートは毎年この時期に発表されているもので、協会に加盟する1000社強を対象とした調査である。さらに、売上の6割以上のシェア持つのは大手出版5社(いわゆる“ビッグ5”)である。この調査は、こうしたことを前提として見るべき数字である(つまり商業出版を行う大手出版社を中心としたもの)。また、日本とは異なり、雑誌は別の産業として考えられているため、雑誌については含まれていない。さらに、教科書などの専門書も含まれていない。そして、決定的に違うのは出版社の調査なので、出荷額ベースの金額だということだ。日本の出版市場は小売りベース、すなわち出荷額で行っているので、日本の調査と単純に並べることはできない。
今年のAAPの調査によると、2016年通期の商業出版全体の市場規模は昨年とほぼ変わらないとしている。それに比べて、電子書籍の売上は13.9%減少をしている。減少傾向はこの2年連続となる。それに反して、ペーパーバックやマスマーケットといわれる軽装のプリント版書籍の売上は、電子書籍売上の減少を補うように成長を取り戻している。背景には大手出版社が電子書籍(正確にいうとアマゾンの電子書籍ビジネス)に積極的でなく、軽装版とそれほど差がないような小売価格戦略をとったことによると見られる。消費者としては、軽装版と電子版で価格差があまりないのであれば、手元にカタチが残るプリント版を選ぶということだろう。電子版の大義名分とされていた「注文後すぐに届く」「品切れがない」「文字の大きさを視力に合わせて変えられる」「場所を占有しない」などは、価格を上回るようなメリットではなかったともいえる。一時期は出版売上に占める電子書籍の売上は35%を超えるほどで、いつ50%を超えるかが議論されていたが、いまや明らかな縮小傾向になり、残念な限りである。
しかし、電子書籍がダメかというと実はそのようなことはない。いわゆるセルフパブリッシング市場での伸びは続いているという調査結果がある。つまり、日本で電子書籍といえば「コミック」というように、それぞれの市場でメディア特性に適合したコンテンツのパッケージ形態としては定着しつつあるのだ。