
TechCrunchが報じたところによると、米国ではネット中立性という規制を廃止しようとするFCC(連邦通信委員会)の提案をめぐる議論が勃発しているようだ。
記事では「ネット中立性」について、あまり詳しく説明されていないが、いまからさかのぼること10年以上前の2000年前半にとても大きな議論となった問題である。
当時、広帯域を使う動画コンテンツの配信などが活発になりつつあった。その動画コンテンツを見るために、ユーザーが契約しているISP(インターネット接続サービス事業者)、特に米国ではケーブルテレビ網を使ったインターネット接続が主流だったことから、各ケーブルテレビ事業者らはそれに耐えるような、さらなる設備増強をすることに迫られていた。しかし、ISPが設備投資をしたところで、ユーザーに対して接続料の値上げをかんたんにいえるわけもなく、そのままでは資金の持ち出しとなることは明らかだった。特に、ケーブルテレビ事業者は自分たちの映像サービスではなく、インターネットによる動画配信は、映像コンテンツという観点では競合にもなり得ることから、納得がいかなかったのだろう。そこで、ISPは「動画を配信するコンテンツプロバイダーはわれわれの回線設備にタダ乗りしている」として、コンテンツプロバイダー側に回線利用料金を要求したり、回線利用料金を払わないコンテンツプロバイダーのトラフィックを遮断したりする施策をとろうとした。
一見、ビジネス的に理屈が通っているようにも思えるが、もし、これを実行するとなれば、通信事業者がパケット内部を見なければならなくなり、いわゆる「ディープパケットインスペクション」を行うことになり、通信の秘密という大前提が崩れる。また、インターネット接続事業者ごとの独断で通すトラフィックや通さないトラフィックが生じることになり、ある意味では通信内容の検閲にまで発展する可能性もあった。そして、最終的にはネットワークの相互接続によって成立している「インターネット」そのものの思想が崩壊することは明らかだった。
現在のところ、規制によって、こうしたことは否定されてはいるが、この規制が廃止されるということは、過去の議論が再燃することになるわけだ。
さて、日本市場を見てみると、いわゆる「安売りSIM」と呼ばれるMVNO通信事業者の何社かが、特定のサービスを優遇し、パケット料金のカウントから外すという「ゼロレーティング」というサービスが展開されている。なんらかのトラフィックを遮断しているわけではないが、特定のサービスを優遇するという意味で「中立性」がくずれているという指摘もされている。もちろん、ディープパケットインスペクションの疑いもある。米国の動向が対岸の火事と思っていると、それは日本の通信市場に対しても影響が及ぶ可能性のあるできごとであると考えるべきだろう。
ニュースソース
- ネット中立性を救え抗議活動にAmazon, Kickstarter, Reddit, YCなど60社あまりが参加[TechCrunch日本版]
https://i.impressrd.jp/archives/1781https://i.impressrd.jp/wp-content/uploads/2017/02/ThinkstockPhotos-96586945-600x481.jpghttps://i.impressrd.jp/wp-content/uploads/2017/02/ThinkstockPhotos-96586945-130x130.jpg編集部ニュースキュレーション事件・できごと,情報通信,行政・政策TechCrunchが報じたところによると、米国ではネット中立性という規制を廃止しようとするFCC(連邦通信委員会)の提案をめぐる議論が勃発しているようだ。
記事では「ネット中立性」について、あまり詳しく説明されていないが、いまからさかのぼること10年以上前の2000年前半にとても大きな議論となった問題である。
当時、広帯域を使う動画コンテンツの配信などが活発になりつつあった。その動画コンテンツを見るために、ユーザーが契約しているISP(インターネット接続サービス事業者)、特に米国ではケーブルテレビ網を使ったインターネット接続が主流だったことから、各ケーブルテレビ事業者らはそれに耐えるような、さらなる設備増強をすることに迫られていた。しかし、ISPが設備投資をしたところで、ユーザーに対して接続料の値上げをかんたんにいえるわけもなく、そのままでは資金の持ち出しとなることは明らかだった。特に、ケーブルテレビ事業者は自分たちの映像サービスではなく、インターネットによる動画配信は、映像コンテンツという観点では競合にもなり得ることから、納得がいかなかったのだろう。そこで、ISPは「動画を配信するコンテンツプロバイダーはわれわれの回線設備にタダ乗りしている」として、コンテンツプロバイダー側に回線利用料金を要求したり、回線利用料金を払わないコンテンツプロバイダーのトラフィックを遮断したりする施策をとろうとした。
一見、ビジネス的に理屈が通っているようにも思えるが、もし、これを実行するとなれば、通信事業者がパケット内部を見なければならなくなり、いわゆる「ディープパケットインスペクション」を行うことになり、通信の秘密という大前提が崩れる。また、インターネット接続事業者ごとの独断で通すトラフィックや通さないトラフィックが生じることになり、ある意味では通信内容の検閲にまで発展する可能性もあった。そして、最終的にはネットワークの相互接続によって成立している「インターネット」そのものの思想が崩壊することは明らかだった。
現在のところ、規制によって、こうしたことは否定されてはいるが、この規制が廃止されるということは、過去の議論が再燃することになるわけだ。
さて、日本市場を見てみると、いわゆる「安売りSIM」と呼ばれるMVNO通信事業者の何社かが、特定のサービスを優遇し、パケット料金のカウントから外すという「ゼロレーティング」というサービスが展開されている。なんらかのトラフィックを遮断しているわけではないが、特定のサービスを優遇するという意味で「中立性」がくずれているという指摘もされている。もちろん、ディープパケットインスペクションの疑いもある。米国の動向が対岸の火事と思っていると、それは日本の通信市場に対しても影響が及ぶ可能性のあるできごとであると考えるべきだろう。
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ネット中立性を救え抗議活動にAmazon, Kickstarter, Reddit, YCなど60社あまりが参加[TechCrunch日本版]編集部編集部
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