インターネットの動向を解説するIT業界定番資料の最新刊『インターネット白書2017』。今年も36人の専門家が寄稿し、技術・ビジネス・社会の隅々まで及ぶインターネットの影響とこれからの可能性をまとめている。ここでは巻頭カラー「2017年のインターネットを読み解く10大キーワード」に取り上げたテーマから、白書の内容の一部を抜粋して紹介しよう。

(1)IoT:産業分野での期待が高まるが、開発スピードを上げることが課題

2013年頃から産業(製造)分野の関心が急速に高まった「IoT」(Internet  of  Things)。IT業界では、ここ1、2年、半導体やプラットフォームの技術をめぐる買収・再編が続いている。2017年はグローバルなITベンダーと実績を積んできた新興企業との協業が進み、プラットフォーム技術の連携も活発になっていくとみられる。エンタープライズIoTは、コンシューマー向けと違い、さまざまなオープンデバイスや複数のサービスを組み合わせるため、システム開発が長引くという問題がある。できるだけ他の事業者と組んで開発スピードを上げることが課題である。(第2部)

(2)LPWA:IoTを加速する省電力型広域無線網

「LPWA」(Low Power Wide Area)は、「低価格」「省電力」で「長距離通信」を実現する次世代無線通信である。5Gの中心となっている高速化の流れと、低速でありながらIoTに大きく貢献するLPWAが、通信業界で同時に進んでいる2つの大きなイノベーションである。日本ではセルラー系の「eMTC」「NB-IoT」と非セルラー系の「LoRaWAN」「SIGFOX」「IEEE 802.11ah(HaLow)」への取り組みが活発化しており、2017年はLPWA元年になると予想される。白書ではそれらの規格や用語を整理し、それぞれの背景や国内のベンチャーの動きまで解説している。(第2部)

(3)ブロックチェーン:ここ数年で実用レベルを目指す

ビットコインの基盤技術として注目されていたブロックチェーンだが、FinTechへの期待とともに、かつての担い手とは全く異なる金融機関や政府などの関心が高まり、実証実験や投資が盛んになっている。用語の定義があいまいなまま期待が過熱したため、拡大解釈したシステムも登場して混乱が生じているが、中立性を持つブロックチェーン化の技術は、金融システムを刷新する可能性を秘めている。現在、実用段階への進化を目指し、さまざまな取り組みが始まっている。(第2部)

(4)ゼロレーティング:MVNOでネットワーク中立性が話題に

2016年のLINEのMVNO参入をきっかけに、ゼロレーティングを採用したサービスに注目が集まった。ゼロレーティングとは、従量制を採用しているネットワークで特定のサービスやアプリケーションに関わる通信を対象外とするもので、日本ではあまり盛り上がらなかったネットワーク中立性の議論が、これをきっかけに話題になった。白書では、今後日本でも増加すると思われるゼロレーティングの制度上の論点を整理。また、国内通信市場で確実に存在感を増しているMVNOについても、代表的な事業者とキャリアとの関係を解説している。(第3部、第4部)

(5)VR:仮想を超える新しい現実感

50年の歴史を持つVR(Virtual Rrality)の技術。ゲームユーザー向けのハイエンドHMDの登場、手の届く価格帯の開発キット、3DゲームエンジンのVRサポートなどいくつものきっかけを経て、開発環境が整った2016年。独自のコンテンツ制作ノウハウも集まり、VRアーティストも注目されるなど話題を集めた。2017年は、技術的・市場的課題に取り組む年になるが、今後の市場としてはゲーム以外の分野が注目される。より一層創り手の裾野を広げることが、さらなる市場拡大に貢献する。(第2部)

(6)AI:現実のサービスに活用され始めた機械学習とディープラーニング

現在起こっている第3次の人工知能ブームは、経験に基づいて自ら振るまいを改良していく機械学習と、大量のデータに内在するパターンの発見手法であるデータマイニングが中心になっている。ゲームプレイ、コミュニケーションパートナーとアドバイザー、ネットワーク応用、人間対応、業務自動化、教育、芸術など、日常生活から基盤業務までAIの活用が広がっている。特に膨大な情報の中から情報をうまく選別する人間の能力を代替する点に経済的価値が見出されている。AIという言葉が浸透しつつある今、言葉の乱用を避け、技術を見極めることが必要になってくる。(第2部)

(7)官民データ活用:オープンデータは2.0へ

日本のオープンデータ政策は東日本大震災時の反省からスタートし、2015年度末に基盤整備的段階「オープンデータ1.0」を終了。データ活用による課題解決を目指す段階「2.0」に入った。2016年12月に、「官民データ活用推進基本法」が成立。政府のIT総合戦略本部の下に首相を議長とする「官民データ活用推進戦略会議」が設置され、政府は「官民データ活用推進基本計画」を定めることが義務付けられた。この計画では、地方自治体や民間企業等におけるデータ活用促進や、重点施策なども定められる。(第5部)

(8)災害とインターネット:2016年の災害におけるIT活用を振り返る

東日本大震災から6年がたったが、ITサービスや利用環境の変化に伴い、災害支援の形も変化している。ソーシャルメディアによる情報発信は新たな展開を見せ、被害状況の把握にAIやドローンなど最新技術も投入され始めた。一方、災害現場の通信環境整備やユーザー教育など運用上の課題も山積している。白書では、2016年の災害への対応にインターネットがどのように活用されたか、ボランティアの動きを中心に概観している。

(9)サイバーセキュリティ:ますます巧妙になるサイバー攻撃

組織において高度サイバー攻撃への対策は進んでいるものの、多様な攻撃集団の台頭や攻撃手段の巧妙化によって、被害が継続して発生している。世界的にも、マルウェア「Mirai」などに感染した機器がBotnetを形成して行われた大規模なDDoS攻撃が大きな話題となった。また、金銭窃取を目的とした攻撃も規模が拡大しており、有事に備えた事業継続計画が必要となりつつある。(第4部)

(10)インターネットガバナンス:20年の議論を経て新時代へ

2014年3月に米国商務省電気通信情報局(NTIA)がIANA機能の監督権限を手放す意向を表明していたが、2016年10月1日、IANA監督権限のインターネットコミュニティーへの移管が完了し、インターネットにおける米国の特別な地位が解消された。1998年のICANN設立前から議論が行われており、約20年を経て、インターネットガバナンスは、新しい時代を迎えたことになる。(第3部)

『インターネット白書2017』では、このように今後のビジネスや社会活動に影響の大きいテクノロジーやインターネット基盤について、ここ数年の流れを整理する形で解説している。また、ゲーム・音楽・電子書籍、放送コンテンツのネット対応といったデジタルコンテンツビジネス、ネット広告やキュレーションなどのメディアビジネス、Eコマースやシェアリングエコノミーといった現在進行しているインターネット上のビジネスについても詳しく解説している。せひ手にとってご覧いただきたい。
(錦戸 陽子)

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