この数年間、情報通信技術の分野では、小型化や速度向上などは繰り返し行われてきたが、これまでとは何かがはっきりと変わる「イノベーティブ=革新的」なできごとは少なくなっていた。しかし、2016年には革新的な技術の進化があった。そして、これらの技術がさまざまな産業分野で利用が進んだ年だった。ここでは、2016年に特徴的だったトピックスを取り上げ、2017年を展望したい。

人工知能(AI)

2016年の上半期、グーグルの人工知能ディープマインドが囲碁の名人を破るというニュースが報じられた。多くの人々が人工知能の有用性に関心を持った。実は、この数年来、グーグルは人工知能技術の開発を強化していた。例えば、人工知能の技術を持つ企業を買収したり、著名な研究者を雇用したりしてきた。いうまでもなく、グーグルは資金だけでなく、「データ」を保持している企業だ。人工知能を実用化するためには、ソフトウエアや高性能なハードウエアだけでなく、多量のデータを必要としている。また、IBMもワトソン(Watson)というエキスパートシステムを積極的に展開している。これもデータ(知識)を蓄積することで、最適な回答を導くための技術だ。
いずれも、重要なのは蓄積された「膨大なデータ」である。情報処理技術を歴史的に見ると、激しい競争を繰り広げる領域は「ハードウエアの時代」から、「ソフトウエアの時代」「ネットワークの時代」へと変遷してきたが、ついに「データの時代」がやってきたわけだ。グーグルはテンサーフロー(TensorFlow)という機械学習エンジンを惜しげもなくオープンソースとして公開していることはまさに象徴的なことだ。
人工知能技術はこれまで何度もブームになったことがあったが、データが足りなかったり、コンピューター性能が足りなかったりと、机上の空論と思われてきたが、さまざまなパズルのピースが見事にそろったことで、これまでの情報処理技術では解けなかったか、解くことが困難だったとされていた命題を解決しつつある。

モノのインターネット(IoT)

インターネットは人間が直接操作している機器(パソコンやスマートデバイス)だけがつながるものではなくなった。工場の生産機器、ビルディングの設備、乗り物、測定器などがインターネットにつながり、そこから収集したデータを分析することで、自動的に機器を制御したり、課題を発見したりすることができるようになってきた。ネットワーク機能を小型化して組み込めるようになったこと、そしてデータを送信するためのワイヤレスインフラ(電波)やクラウドサービス(サーバー)の商用サービスも提供されはじめた。この分野ではすドイツのシーメンス、米国のゼネラルエレクトリック(GE)などの大手国際企業が積極的に取り組んでいる。各社はIoTを第4の産業革命と称して、産業の効率化を目指しているが、それだけではなく、さまざまな機器や設備の「サービス化」をも狙っている。日本でも政策的な後押しもあり、各社がこの分野への取り組みを強化している。ただし、ハードウエアを入れただけでは意味がなく、いかに分析やフィードバックをするかなど、事業そのものの見直しも迫られるため、本格的な稼働は2017年以降に本格化してくるだろう。

仮想現実(AR/VR)

VRはごついヘッドマウントディスプレーを頭に装着し、現実を遮断した上で、仮想的な360度の映像を楽しんだりするものである。また、ARは透過型メガネなどを使って、現実に見えているものと仮想的な情報を重ね合わせて見せる技術である。前者は主にエンターテインメント分野で、後者は主にビジネス分野での利用例が多く登場してきている。エンターテインメント分野では主要なゲーム機で採用されたり、有名アーティストがライブを行ったりしている。ビジネス分野では点検業務などで、マニュアルを重ね合わせて表示するような用途が提案されている。

チャットインターフェース

インターネットでのコミュニケーション用アプリケーションとしては、長らく電子メールが使われてきた。パーソナルな分野では、この数年来のSNSの普及により、チャットインターフェースが当たり前となっているが、ビジネス用途ではまだまだメールが主流である。しかし、ビジネス面でもチャットインターフェースが利用されはじめている。スラック、スカイプ、ハングアウト、フェースブックメッセンジャーなど、いくつものソフトウエアの選択肢がある。今後もフォーマルな連絡ではメールが使われる続けるだろうが、同じチーム内での「報告・連絡・相談」などはチャットインターフェースを使って、より細かい単位での、気軽なコミュニケーションが促進されるだろう。
さらに、AIを使った「ボット」と呼ばれるソフトウエアにより、自動的に応答したり、コンテンツを配信したりする試みも広がりつつある。特に、ユーザーサポートでは、コールセンターの人間が対応するまえに、チャットボットがエキスパートシステムを使って対応し、不可能な場合に人間が対応するというような流れも一般化していくと見込まれる。

AIアシスタント

アマゾンがエコーというアプライアンス(ネットワーク家電)を発売している。また、グーグルもホームというアプライアンスを発売した。いずれも、人間が話かけることで、内容を認識し、適切な回答やアクションをするものである。単に音声を認識するだけでなく、コンテキスト(話の流れや背景)を理解して、より気のきいた回答をするところがAIというゆえんだろう。将来的にはキーボード、マウス、ディスプレーを使うインターフェースから、音声によるインターフェースに移っていくだろうと指摘している調査会社もある。スマートフォンの入力に慣れた若年層がキーボードが苦手だという声もあり、あながち言い過ぎでもないだろう。

自動運転

車分野においては、自動運転の可能性が見えてきた。いわゆる自動車メーカーだけでなく、IT技術に優位性のあるテスラモータース、グーグルはもちろん、アップルもこの分野での関心を示している。米国ではすでに公道を走行していて、日本の自動車メーカーよりも一歩先を行っているように見える。これは従来の車体というハードウエアではなく、制御のためのソフトウエア、より正確にいうと人工知能と大量のデータの蓄積が勝負の分かれ目となるのではないか。まだまだ秘密裏になっている日本メーカーの技術開発がどのように世の中に出てくるかは興味深いところである。

Xテック

金融におけるIT技術の応用=フィンテック、医療におけるIT技術の応用=ヘルステックというように、各専門領域、しかもクリティカルな分野とIT技術の高度な利用が進んだのも今年の特徴的な動きだ。しかも、実験的なものにとどまらず、本格的な導入も進みつつある。フィンテック分野では、人工知能との応用で、投資戦略をアドバイスしたり、ファンドを組成したりする商品やサービスが提供されはじめている。医療分野では、膨大な論文を読み込んでいなければ、医師でも判断が難しい難病の診断を人工知能がサポートするようになってきている。ますます応用される産業や場面は広がることは間違いないだろう。

2017年の展望:オープンイノベーションがさらに進む

2016年のニュースを振り返ると、企業間、しかも異業種間の提携が多かった。これはいわゆる「オープンイノベーション」という考え方に根ざしていると思われる。かつて、日本の企業は大企業を中心として、さまざまな技術を社内で内包していて、なるべく自社(あるいは系列企業内)で完結するような体制での開発をしてき。しかし、いまやその方法では対応できないほど、各技術の高度化、そして進歩が早くなってきている。これを解決するために、技術的な比較優位性のある企業と、いち早く提携関係を築こうというわけだ。このように考えると2017年以降、企業間の提携、買収はさらに激しくなることだろう。国内企業と海外企業の協業はもちろんのこと、特に、銀行のような“固い”産業が、やんちゃなスタートアップ企業と手を組む例も増えてきたが、文化や風土も大きく異なる企業同士の協業をうまくできるかどうかも、今後の産業拡大の成否に影響を与える。

https://i.impressrd.jp/wp-content/uploads/2016/10/ThinkstockPhotos-476511721-1024x1024.jpghttps://i.impressrd.jp/wp-content/uploads/2016/10/ThinkstockPhotos-476511721-130x130.jpg編集部ニュースキュレーションAI(人工知能),AR,IoT,VR,ゲーム/エンターテインメント,ハードウェア(スマートデバイス/コンシューマー),フィンテック,ヘルステック,企業戦略/業績,情報通信,自動運転この数年間、情報通信技術の分野では、小型化や速度向上などは繰り返し行われてきたが、これまでとは何かがはっきりと変わる「イノベーティブ=革新的」なできごとは少なくなっていた。しかし、2016年には革新的な技術の進化があった。そして、これらの技術がさまざまな産業分野で利用が進んだ年だった。ここでは、2016年に特徴的だったトピックスを取り上げ、2017年を展望したい。 人工知能(AI) 2016年の上半期、グーグルの人工知能ディープマインドが囲碁の名人を破るというニュースが報じられた。多くの人々が人工知能の有用性に関心を持った。実は、この数年来、グーグルは人工知能技術の開発を強化していた。例えば、人工知能の技術を持つ企業を買収したり、著名な研究者を雇用したりしてきた。いうまでもなく、グーグルは資金だけでなく、「データ」を保持している企業だ。人工知能を実用化するためには、ソフトウエアや高性能なハードウエアだけでなく、多量のデータを必要としている。また、IBMもワトソン(Watson)というエキスパートシステムを積極的に展開している。これもデータ(知識)を蓄積することで、最適な回答を導くための技術だ。 いずれも、重要なのは蓄積された「膨大なデータ」である。情報処理技術を歴史的に見ると、激しい競争を繰り広げる領域は「ハードウエアの時代」から、「ソフトウエアの時代」「ネットワークの時代」へと変遷してきたが、ついに「データの時代」がやってきたわけだ。グーグルはテンサーフロー(TensorFlow)という機械学習エンジンを惜しげもなくオープンソースとして公開していることはまさに象徴的なことだ。 人工知能技術はこれまで何度もブームになったことがあったが、データが足りなかったり、コンピューター性能が足りなかったりと、机上の空論と思われてきたが、さまざまなパズルのピースが見事にそろったことで、これまでの情報処理技術では解けなかったか、解くことが困難だったとされていた命題を解決しつつある。 モノのインターネット(IoT) インターネットは人間が直接操作している機器(パソコンやスマートデバイス)だけがつながるものではなくなった。工場の生産機器、ビルディングの設備、乗り物、測定器などがインターネットにつながり、そこから収集したデータを分析することで、自動的に機器を制御したり、課題を発見したりすることができるようになってきた。ネットワーク機能を小型化して組み込めるようになったこと、そしてデータを送信するためのワイヤレスインフラ(電波)やクラウドサービス(サーバー)の商用サービスも提供されはじめた。この分野ではすドイツのシーメンス、米国のゼネラルエレクトリック(GE)などの大手国際企業が積極的に取り組んでいる。各社はIoTを第4の産業革命と称して、産業の効率化を目指しているが、それだけではなく、さまざまな機器や設備の「サービス化」をも狙っている。日本でも政策的な後押しもあり、各社がこの分野への取り組みを強化している。ただし、ハードウエアを入れただけでは意味がなく、いかに分析やフィードバックをするかなど、事業そのものの見直しも迫られるため、本格的な稼働は2017年以降に本格化してくるだろう。 仮想現実(AR/VR) VRはごついヘッドマウントディスプレーを頭に装着し、現実を遮断した上で、仮想的な360度の映像を楽しんだりするものである。また、ARは透過型メガネなどを使って、現実に見えているものと仮想的な情報を重ね合わせて見せる技術である。前者は主にエンターテインメント分野で、後者は主にビジネス分野での利用例が多く登場してきている。エンターテインメント分野では主要なゲーム機で採用されたり、有名アーティストがライブを行ったりしている。ビジネス分野では点検業務などで、マニュアルを重ね合わせて表示するような用途が提案されている。 チャットインターフェース インターネットでのコミュニケーション用アプリケーションとしては、長らく電子メールが使われてきた。パーソナルな分野では、この数年来のSNSの普及により、チャットインターフェースが当たり前となっているが、ビジネス用途ではまだまだメールが主流である。しかし、ビジネス面でもチャットインターフェースが利用されはじめている。スラック、スカイプ、ハングアウト、フェースブックメッセンジャーなど、いくつものソフトウエアの選択肢がある。今後もフォーマルな連絡ではメールが使われる続けるだろうが、同じチーム内での「報告・連絡・相談」などはチャットインターフェースを使って、より細かい単位での、気軽なコミュニケーションが促進されるだろう。 さらに、AIを使った「ボット」と呼ばれるソフトウエアにより、自動的に応答したり、コンテンツを配信したりする試みも広がりつつある。特に、ユーザーサポートでは、コールセンターの人間が対応するまえに、チャットボットがエキスパートシステムを使って対応し、不可能な場合に人間が対応するというような流れも一般化していくと見込まれる。 AIアシスタント アマゾンがエコーというアプライアンス(ネットワーク家電)を発売している。また、グーグルもホームというアプライアンスを発売した。いずれも、人間が話かけることで、内容を認識し、適切な回答やアクションをするものである。単に音声を認識するだけでなく、コンテキスト(話の流れや背景)を理解して、より気のきいた回答をするところがAIというゆえんだろう。将来的にはキーボード、マウス、ディスプレーを使うインターフェースから、音声によるインターフェースに移っていくだろうと指摘している調査会社もある。スマートフォンの入力に慣れた若年層がキーボードが苦手だという声もあり、あながち言い過ぎでもないだろう。 自動運転 車分野においては、自動運転の可能性が見えてきた。いわゆる自動車メーカーだけでなく、IT技術に優位性のあるテスラモータース、グーグルはもちろん、アップルもこの分野での関心を示している。米国ではすでに公道を走行していて、日本の自動車メーカーよりも一歩先を行っているように見える。これは従来の車体というハードウエアではなく、制御のためのソフトウエア、より正確にいうと人工知能と大量のデータの蓄積が勝負の分かれ目となるのではないか。まだまだ秘密裏になっている日本メーカーの技術開発がどのように世の中に出てくるかは興味深いところである。 Xテック 金融におけるIT技術の応用=フィンテック、医療におけるIT技術の応用=ヘルステックというように、各専門領域、しかもクリティカルな分野とIT技術の高度な利用が進んだのも今年の特徴的な動きだ。しかも、実験的なものにとどまらず、本格的な導入も進みつつある。フィンテック分野では、人工知能との応用で、投資戦略をアドバイスしたり、ファンドを組成したりする商品やサービスが提供されはじめている。医療分野では、膨大な論文を読み込んでいなければ、医師でも判断が難しい難病の診断を人工知能がサポートするようになってきている。ますます応用される産業や場面は広がることは間違いないだろう。 2017年の展望:オープンイノベーションがさらに進む 2016年のニュースを振り返ると、企業間、しかも異業種間の提携が多かった。これはいわゆる「オープンイノベーション」という考え方に根ざしていると思われる。かつて、日本の企業は大企業を中心として、さまざまな技術を社内で内包していて、なるべく自社(あるいは系列企業内)で完結するような体制での開発をしてき。しかし、いまやその方法では対応できないほど、各技術の高度化、そして進歩が早くなってきている。これを解決するために、技術的な比較優位性のある企業と、いち早く提携関係を築こうというわけだ。このように考えると2017年以降、企業間の提携、買収はさらに激しくなることだろう。国内企業と海外企業の協業はもちろんのこと、特に、銀行のような“固い”産業が、やんちゃなスタートアップ企業と手を組む例も増えてきたが、文化や風土も大きく異なる企業同士の協業をうまくできるかどうかも、今後の産業拡大の成否に影響を与える。IT第二幕を世界のニュースで横断読み解き。