2016年11月11日、熊本県天草市で、「地域IoTサミット2016 in 天草」が開催された。地方創生の戦略としても注目されるIoT(Internet of Things)について、実際に地域単位で取り組むには何を意識すればいいのか。ウフルの八子知札氏が解説し、熊本県内の事業者が具体事例を発表した。その内容をレポートする(主催:独立行政法人中小企業基盤整備機構、共催:一般社団法人日本中小企業情報化支援協議会、協力:Ama-biZ)。
IoTは「人」と「データ」から発想して創る〜ウフル 八子 知礼氏
ウフル 上級執行役員の八子知礼(やこ・とものり)氏
ウフルの八子氏は、「中小企業、地方都市で取り組むべきIoT」と題した講演を行った。
まず、背景として、自前で設備を持たなくとも初めからデジタル空間だけでビジネスを定義した勢力が急成長しているという「フルデジタル化」の潮流を語った。Eコマースのアマゾンや民泊のAirbnbはその典型で、アナログ手段の置き換えに過ぎないITとは別次元の動きが世界的に進んでいることを紹介した。
IoTは、その大きなトレンドの先にあり、現実に発生するデータやオペレーションをデジタル空間上でリアルタイムにシミュレーションすることが必要になる。これを八子氏はリアルとデジタルの双子「Digital-twin」と呼び、IoTの重要なコンセプトだと述べた。単なるM2M(マシン間通信)とは違い、情報は供給先(顧客)からもフィードバックされるが、そのデータの「系」は一方向ではなく、マルチになる。IoTでは、このデータのつなぎ目をコントロールしていくことと、活用できるデータの量(ビッグデータ)と質を確保することがビジネス成功の鍵を握るという。
また、デジタル空間上で多様なプレイヤーが結びつくIoTでは、企業間の壁はもちろん、隣接する業界との境目もなくなり、たとえば一次産業とIT業界という区別は意味を持たなくなる。さらに一度作ったモデルはオープン化して他に提供しやすいのもデジタルの特性である。したがって、たとえば海外の港の例であっても遠い話ではなく、「自分たちの地域や必要な規模に置き換えて取れ入れればいい」とアドバイスした。
ただ、IoTに取り組む企業は、この1年で大きく増えていないという。地方の場合、リアルに高い価値はあってもデジタル化の部分で人材や技術が不足していることが多い。これからIoTを始めるなら、他地域のノウハウのある企業や各領域の専門家との「積極的な連携」が現実的な対策として必要になるという。
八子氏はさらに、IoTのビジネスを創るにあたり、誰が困っているのか、「人」に着目するといいとアドバイスした。IoTは、「モノのインターネット」ではなく、「ものごとのインターネット」と捉えたほうがわかりやすい。建築・土木現場に導入されているドローンが人手不足を補うことを目的にしているように、人に着目したほうが、モノから発想するよりも、はるかに多くのことが見えてくるだろうと語った。
熊本県の事例「次世代モビリティー」「Pepperアプリ」「患者見守りサービス」
続いて、熊本県内のIoTに関連した取り組み事例を3人が紹介した。
地域の課題を解決する次世代モビリティー〜九電テクノシステムズ 鶴岡 良一氏
九電テクノシステムズ 理事の鶴岡良一氏
九電テクノシステムズの鶴岡氏は、電気自動車(EV)を使った「次世代モビリティー」について紹介した。
現在、「マイカー」に依存した街作りや高齢化の影響が深刻になる一方で、地方では公共交通インフラが限界を迎えており、移動手段の不足が全国的な問題となっている。鶴岡氏は、この現実の課題を解決するのが「次世代モビリティー」だと語る。
次世代のモビリティーは、小型化・パーソナル化など乗り物の「多様化」、自動運転などの「システム化」を含むが、特に広く求められるのはモビリティーの「サービス化」であり、それを支えるのが「シェア」の発想である。
鶴岡氏は、マイカーの所有者を対象にマスマーケット視点で提供される「コネクテッドカー」ではなく、地域に限定し、シェアの要素を前提にした「マネージドビークル」(地域単位で管理された乗り物)なら、すぐにでも地域単位のスマートなモビリティーが実現できると語る。
特に天草は、そのフィードに適しているという。天草は人口減少が加速している「課題先進地域」だが、阿蘇に次ぐ熊本県の一大観光拠点でもある。福岡市や熊本市といったリアルな経済圏からは遠いが、海からのアクセス(港)や空のルート(空港)を持っている。そして島内の移動にはクルマが必須になる。天草で、誰でも安全に走行でき、観光ガイダンスや生活コンテンツと連動するクルマ(とそのインフラ)があれば、新しい地域モビリティーの形が実現できる。
2016年11月から、長崎からの船が発着する富岡港を持つ苓北町では、観光客向けにEVを貸し出す無料モニターサービスがスタートした。「あまたび」というブランドロゴを付けたこのクルマでは、利用客が簡単にガイドを呼び出すアプリを開発し、移動中に観光客の情報サポートをすることも検討されている。そしてEVを利用する観光客の走行データ(どの道をどのタイミングで通り、どの観光スポットを利用したかなど)を分析することで、今後の観光振興に寄与することを目指しているという。
天草のモビリティー・シェアリング構想と「あまたび」の体験については後日改めてレポートします。
Pepperを利用した被災地支援の事例紹介〜アクセント 岩本 芳久氏
アクセント 統括部長の岩本 芳久氏とPepper
ウェブシステムやスマホ・タブレット用アプリ、通販システムの開発・コンサルティングを手がけるアクセント(熊本市)の岩本氏は、人型ロボットPepper向けアプリの開発事例を紹介した。
Pepperは、自分で判断したり、簡単な会話をしたり、写真を撮ったり、音楽を鳴らしたりできる一方で、認識できる人数に限界があったり、物を持てなかったりする。その特性をふまえて現在は「接客アプリ」「受付アプリ」「インバウンドアプリ」(観光アプリ)「ヘルスケアアプリ」が多く開発されているという。このうち「ヘルスケアアプリ」は高齢者に受け入れられやすく、体操を促す認知症予防プログラムに活用されている。
2016年4月の熊本震災後、同社が被災者支援のために開発したのは、受付やヘルスケアに近い「お出迎えアプリ」と「リラクゼーションアプリ」だ。
提供した先は熊本県の益城町にある木山中学校。木山中は2016年4月の熊本震災によるダメージが激しく、生徒はしばらく小学校で勉強していた。そこにPepperの開発元であるソフトバンクから何かサプライズをしたいという相談があり、生徒が学校に来たときに昇降口に置かれたPepperが話しかけるアプリを開発して提供した。とてもシンプルな機能だが、中学生はとても喜んでくれたという。
もうひとつの「リラクゼーションアプリ」は、学校のカウンセラーの監修を受けて作った。音楽を流しながら、Pepperの動きに合わせて生徒がストレッチをするというもので、「朝の会」と「帰りの会」に実施された。このアプリは今後仮設住宅の集会所に置かれる予定のPepperに提供するつもりだ。
Pepperは今後、搭載している人工知能の発展が期待されている。また、利用者の詳細データを取ることで、観光その他幅広い分野に役立つようになるだろうと岩本氏は解説した。
人工知能による患者見守りシステム開発〜ワイズ・リーディング 相馬 章人氏
ワイズ・リーディング 人工知能研究所 主任研究員の相馬 章人氏
ワイズ・リーディングは熊本大学医学部発のベンチャー企業である。放射線医療画像の遠隔診断から事業をスタートし、医師や医療施設向けに特化したシステムを開発してきたが、2015年4月に人工知能の持つ画像解析と自然言語解析を使ったソフトウェアをR&Dする人工知能研究所を立ち上げた。解析した情報をもとに診断書を自動作成するソフトや、施設の退院調整時にリハビリ動画の分析結果を提供して受け入れ先をマッチングするサービスなどを生み出している。
また、IoTは、医療と工学を連携したイノベーションと捉えており、院内感染症を防ぐ工夫をした台車を作るなど医療現場のニーズを受けて開発したものもある。
2016年4月には、人工知能を使った高齢者の見守りシステム「Y’s Keeper」を発表した。介護施設や病院では、夜間になると40人の入院患者を3人でサポートしているというデータもある。また、毎日見守り業務に費やす時間が多く、その時間を別の業務に回すことができれば、勤務者のモチベーションの向上につながると考えられる。
「Y’s Keeper」では、患者にBLEビーコンを搭載した発信器を付け、患者の位置を電波でキャッチする。ペンダントやリストバンドだけでなく、ポケットに発信器を入れた靴も製造した。施設内においたカメラでは画像認識で個人を特定できる。患者の位置表示や移動履歴表示機能、時系列の画像認識機能を持ち、この人がこの時間、この場所に行けば警告するというように、個人別の管理が可能になる。
今後は見守りの範囲を施設内だけでなく施設外まで広げられないか検討しているという。また、蓄積したデータから、患者の特徴を取り出して、転倒する危険の前兆を捉えるなど、人工知能/ディープニングだからできる機能を発展させたいと考えている。
地域IoTを推進する「天草IoTイニシアティブ」が発足
各講演の合間には、IoTに期待を寄せる天草の事業者が自分たちの取り組みを紹介した。
地元でパソコン・ソフトウェア事業と遊漁船業「釣り船Rossy」を営む花田 寛氏は、天候や風向きによって傾く小型の船で釣り客の釣り糸を垂直に保つため、風の動きを予知して船体の傾きを最小限に抑える自動制御システムを開発しようとしている。
天草の農水産加工物の通販事業や生産者のコワーキングスペースを運営しているクリエーション WEB PLANNING代表取締役の益田沙央里氏は、嫁ぎ先が5代続く車海老の養殖事業者であり、その養殖事業のIoT化を模索している。経済産業省が主導する「IoT Lab Selection」に応募したが、大手企業に囲まれて緊張し、二次ブレゼンで落ちてしまった経験を振り返った。それでも「養殖事業をこの先100年続けていくためにはIoTによる改革は不可欠」だと考えており、再チャレンジしていきたいと意気込みを語った。
地域ISP「あまくさ藍ネット」を運営する大曲昭仁氏は、自社が運営するパソコン教室で、マイコンとIoTを知ってもらおうと、2016年7月から親子向けに電子工作を教えている。 牛乳パックにマイコンとセンサーを入れたIoT百葉箱が数千円のコストでできることを紹介し、今後はロボットプログラミングの教室も開いて天草のIoTの活性化に役立てたいと語った。
こうした天草の事業者を支援してきたAma-biZ(天草市起業創業・中小企業支援センター アマビズ)初代センター長の野間英樹氏は、この日、「天草IoTイニシアティブ」というグループの発足を宣言した。
野間氏は天草の魅力について、水産業をはじめとする「多彩なフィールド」があること、観光スポットの多くが「手つかず」であること、「島という、社会実験結果のわかりやすさ」があることと分析し、天草から新しいIoTプロジェクトを創出したいとグループへの参加を呼びかけた。
2017年1月には、天草市でドローンをテーマにしたセミナーが開催されることも決定しており、地域IoTの新しいモデルが、このサミットをきっかけに生まれるかもしれない。
(錦戸 陽子)
天草IoTブロジェクト
http://iot-initiative.com/2016/11/
https://i.impressrd.jp/archives/1158 https://i.impressrd.jp/wp-content/uploads/2016/12/スクリーンショット-2016-12-03-12.30.20-600x344.png https://i.impressrd.jp/wp-content/uploads/2016/12/スクリーンショット-2016-12-03-12.30.20-130x130.png 2016-12-05T16:02:55+09:00 nisikido 寄稿 IoT 2016年11月11日、熊本県天草市で、「地域IoTサミット2016 in 天草」が開催された。地方創生の戦略としても注目されるIoT(Internet of Things)について、実際に地域単位で取り組むには何を意識すればいいのか。ウフルの八子知札氏が解説し、熊本県内の事業者が具体事例を発表した。その内容をレポートする(主催:独立行政法人中小企業基盤整備機構、共催:一般社団法人日本中小企業情報化支援協議会、協力:Ama-biZ)。
IoTは「人」と「データ」から発想して創る〜ウフル 八子 知礼氏
ウフルの八子氏は、「中小企業、地方都市で取り組むべきIoT」と題した講演を行った。
まず、背景として、自前で設備を持たなくとも初めからデジタル空間だけでビジネスを定義した勢力が急成長しているという「フルデジタル化」の潮流を語った。Eコマースのアマゾンや民泊のAirbnbはその典型で、アナログ手段の置き換えに過ぎないITとは別次元の動きが世界的に進んでいることを紹介した。
IoTは、その大きなトレンドの先にあり、現実に発生するデータやオペレーションをデジタル空間上でリアルタイムにシミュレーションすることが必要になる。これを八子氏はリアルとデジタルの双子「Digital-twin」と呼び、IoTの重要なコンセプトだと述べた。単なるM2M(マシン間通信)とは違い、情報は供給先(顧客)からもフィードバックされるが、そのデータの「系」は一方向ではなく、マルチになる。IoTでは、このデータのつなぎ目をコントロールしていくことと、活用できるデータの量(ビッグデータ)と質を確保することがビジネス成功の鍵を握るという。
また、デジタル空間上で多様なプレイヤーが結びつくIoTでは、企業間の壁はもちろん、隣接する業界との境目もなくなり、たとえば一次産業とIT業界という区別は意味を持たなくなる。さらに一度作ったモデルはオープン化して他に提供しやすいのもデジタルの特性である。したがって、たとえば海外の港の例であっても遠い話ではなく、「自分たちの地域や必要な規模に置き換えて取れ入れればいい」とアドバイスした。
ただ、IoTに取り組む企業は、この1年で大きく増えていないという。地方の場合、リアルに高い価値はあってもデジタル化の部分で人材や技術が不足していることが多い。これからIoTを始めるなら、他地域のノウハウのある企業や各領域の専門家との「積極的な連携」が現実的な対策として必要になるという。
八子氏はさらに、IoTのビジネスを創るにあたり、誰が困っているのか、「人」に着目するといいとアドバイスした。IoTは、「モノのインターネット」ではなく、「ものごとのインターネット」と捉えたほうがわかりやすい。建築・土木現場に導入されているドローンが人手不足を補うことを目的にしているように、人に着目したほうが、モノから発想するよりも、はるかに多くのことが見えてくるだろうと語った。
熊本県の事例「次世代モビリティー」「Pepperアプリ」「患者見守りサービス」
続いて、熊本県内のIoTに関連した取り組み事例を3人が紹介した。
地域の課題を解決する次世代モビリティー〜九電テクノシステムズ 鶴岡 良一氏
九電テクノシステムズの鶴岡氏は、電気自動車(EV)を使った「次世代モビリティー」について紹介した。
現在、「マイカー」に依存した街作りや高齢化の影響が深刻になる一方で、地方では公共交通インフラが限界を迎えており、移動手段の不足が全国的な問題となっている。鶴岡氏は、この現実の課題を解決するのが「次世代モビリティー」だと語る。
次世代のモビリティーは、小型化・パーソナル化など乗り物の「多様化」、自動運転などの「システム化」を含むが、特に広く求められるのはモビリティーの「サービス化」であり、それを支えるのが「シェア」の発想である。
鶴岡氏は、マイカーの所有者を対象にマスマーケット視点で提供される「コネクテッドカー」ではなく、地域に限定し、シェアの要素を前提にした「マネージドビークル」(地域単位で管理された乗り物)なら、すぐにでも地域単位のスマートなモビリティーが実現できると語る。
特に天草は、そのフィードに適しているという。天草は人口減少が加速している「課題先進地域」だが、阿蘇に次ぐ熊本県の一大観光拠点でもある。福岡市や熊本市といったリアルな経済圏からは遠いが、海からのアクセス(港)や空のルート(空港)を持っている。そして島内の移動にはクルマが必須になる。天草で、誰でも安全に走行でき、観光ガイダンスや生活コンテンツと連動するクルマ(とそのインフラ)があれば、新しい地域モビリティーの形が実現できる。
2016年11月から、長崎からの船が発着する富岡港を持つ苓北町では、観光客向けにEVを貸し出す無料モニターサービスがスタートした。「あまたび」というブランドロゴを付けたこのクルマでは、利用客が簡単にガイドを呼び出すアプリを開発し、移動中に観光客の情報サポートをすることも検討されている。そしてEVを利用する観光客の走行データ(どの道をどのタイミングで通り、どの観光スポットを利用したかなど)を分析することで、今後の観光振興に寄与することを目指しているという。
Pepperを利用した被災地支援の事例紹介〜アクセント 岩本 芳久氏
ウェブシステムやスマホ・タブレット用アプリ、通販システムの開発・コンサルティングを手がけるアクセント(熊本市)の岩本氏は、人型ロボットPepper向けアプリの開発事例を紹介した。
Pepperは、自分で判断したり、簡単な会話をしたり、写真を撮ったり、音楽を鳴らしたりできる一方で、認識できる人数に限界があったり、物を持てなかったりする。その特性をふまえて現在は「接客アプリ」「受付アプリ」「インバウンドアプリ」(観光アプリ)「ヘルスケアアプリ」が多く開発されているという。このうち「ヘルスケアアプリ」は高齢者に受け入れられやすく、体操を促す認知症予防プログラムに活用されている。
2016年4月の熊本震災後、同社が被災者支援のために開発したのは、受付やヘルスケアに近い「お出迎えアプリ」と「リラクゼーションアプリ」だ。
提供した先は熊本県の益城町にある木山中学校。木山中は2016年4月の熊本震災によるダメージが激しく、生徒はしばらく小学校で勉強していた。そこにPepperの開発元であるソフトバンクから何かサプライズをしたいという相談があり、生徒が学校に来たときに昇降口に置かれたPepperが話しかけるアプリを開発して提供した。とてもシンプルな機能だが、中学生はとても喜んでくれたという。
もうひとつの「リラクゼーションアプリ」は、学校のカウンセラーの監修を受けて作った。音楽を流しながら、Pepperの動きに合わせて生徒がストレッチをするというもので、「朝の会」と「帰りの会」に実施された。このアプリは今後仮設住宅の集会所に置かれる予定のPepperに提供するつもりだ。
Pepperは今後、搭載している人工知能の発展が期待されている。また、利用者の詳細データを取ることで、観光その他幅広い分野に役立つようになるだろうと岩本氏は解説した。
人工知能による患者見守りシステム開発〜ワイズ・リーディング 相馬 章人氏
ワイズ・リーディングは熊本大学医学部発のベンチャー企業である。放射線医療画像の遠隔診断から事業をスタートし、医師や医療施設向けに特化したシステムを開発してきたが、2015年4月に人工知能の持つ画像解析と自然言語解析を使ったソフトウェアをR&Dする人工知能研究所を立ち上げた。解析した情報をもとに診断書を自動作成するソフトや、施設の退院調整時にリハビリ動画の分析結果を提供して受け入れ先をマッチングするサービスなどを生み出している。
また、IoTは、医療と工学を連携したイノベーションと捉えており、院内感染症を防ぐ工夫をした台車を作るなど医療現場のニーズを受けて開発したものもある。
2016年4月には、人工知能を使った高齢者の見守りシステム「Y's Keeper」を発表した。介護施設や病院では、夜間になると40人の入院患者を3人でサポートしているというデータもある。また、毎日見守り業務に費やす時間が多く、その時間を別の業務に回すことができれば、勤務者のモチベーションの向上につながると考えられる。
「Y's Keeper」では、患者にBLEビーコンを搭載した発信器を付け、患者の位置を電波でキャッチする。ペンダントやリストバンドだけでなく、ポケットに発信器を入れた靴も製造した。施設内においたカメラでは画像認識で個人を特定できる。患者の位置表示や移動履歴表示機能、時系列の画像認識機能を持ち、この人がこの時間、この場所に行けば警告するというように、個人別の管理が可能になる。
今後は見守りの範囲を施設内だけでなく施設外まで広げられないか検討しているという。また、蓄積したデータから、患者の特徴を取り出して、転倒する危険の前兆を捉えるなど、人工知能/ディープニングだからできる機能を発展させたいと考えている。
地域IoTを推進する「天草IoTイニシアティブ」が発足
各講演の合間には、IoTに期待を寄せる天草の事業者が自分たちの取り組みを紹介した。
地元でパソコン・ソフトウェア事業と遊漁船業「釣り船Rossy」を営む花田 寛氏は、天候や風向きによって傾く小型の船で釣り客の釣り糸を垂直に保つため、風の動きを予知して船体の傾きを最小限に抑える自動制御システムを開発しようとしている。
天草の農水産加工物の通販事業や生産者のコワーキングスペースを運営しているクリエーション WEB PLANNING代表取締役の益田沙央里氏は、嫁ぎ先が5代続く車海老の養殖事業者であり、その養殖事業のIoT化を模索している。経済産業省が主導する「IoT Lab Selection」に応募したが、大手企業に囲まれて緊張し、二次ブレゼンで落ちてしまった経験を振り返った。それでも「養殖事業をこの先100年続けていくためにはIoTによる改革は不可欠」だと考えており、再チャレンジしていきたいと意気込みを語った。
地域ISP「あまくさ藍ネット」を運営する大曲昭仁氏は、自社が運営するパソコン教室で、マイコンとIoTを知ってもらおうと、2016年7月から親子向けに電子工作を教えている。 牛乳パックにマイコンとセンサーを入れたIoT百葉箱が数千円のコストでできることを紹介し、今後はロボットプログラミングの教室も開いて天草のIoTの活性化に役立てたいと語った。
こうした天草の事業者を支援してきたAma-biZ(天草市起業創業・中小企業支援センター アマビズ)初代センター長の野間英樹氏は、この日、「天草IoTイニシアティブ」というグループの発足を宣言した。
野間氏は天草の魅力について、水産業をはじめとする「多彩なフィールド」があること、観光スポットの多くが「手つかず」であること、「島という、社会実験結果のわかりやすさ」があることと分析し、天草から新しいIoTプロジェクトを創出したいとグループへの参加を呼びかけた。
2017年1月には、天草市でドローンをテーマにしたセミナーが開催されることも決定しており、地域IoTの新しいモデルが、このサミットをきっかけに生まれるかもしれない。
(錦戸 陽子)
天草IoTブロジェクト
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