震災時の自治体を疑似体験する【危機対応ロールプレイング研修】報告
2011年12月17日、情報支援プロボノ・プラットフォーム(iSPP)主催により、東京八重洲のTKPカンファレンスセンターにて「危機対応ロールプレイング研修」が行われた。iSPPは3月の東日本大震災後、ICT(情報通信技術)関係者により被災地の復興を支える情報システムの構築・運用のために立ち上げられた任意団体で、これまで被災3県における情報行動調査の実施をはじめ、さまざまな活動を展開してきている。今回の研修には東日本大震災の被災地からの参加者を含め、約30名がロールプレイに臨んだ。
危機対応能力向上トレーニング「T-メソッド」とは?
今回の研修で採用された「高橋メソッド(T-メソッド)」は、阪神淡路大震災後に神戸市の職員として対応にあたった高橋正幸氏(上の写真)が、その体験をもとに自治体の組織として、また職員個人としての危機管理の能力向上を目指して考案した訓練法。高橋氏は、神戸市の新入職員の危機管理研修を担当した際、大震災の教訓を聞かせるだけでは十分な訓練にならないと気づいた。そこで体験を引き継ぐ方法として、ロールプレイによる危機時の疑似体験を通じた能力向上トレーニング法を開発するに至った。
参加者に与えられるロール(役割)は、災害に遭った区役所や市役所のまちづくり担当、保健福祉担当などの職員である。もともと自治体職員向けの研修のためだが、一般市民が立場を変えて受講しても、疑似体験を通じて、個々人や市民としての危機対応能力を高められる効果があるという。
ロールプレイの実際の流れ
今回のロールプレイは「201X年12月17日木曜日12時46分、神戸市全域において震度7の大地震が発生」という状況で、長田区役所、東灘区役所、報道の3グループが危機対応にあたるという設定で行われた。区役所2グループは、区長役の指揮のもとで被害状況の把握や災害対策体制の立ち上げ・運営に取り組み、その動きをマスコミが追っていく。
想定状況は約1分(実時間の60分に相当)毎に差し替えられる。
参加者は、まず配布されたロールプロファイルに基づき、自分の役割が果たすべきミッションは何かを考えさせられる。プレイは、発災時から24時間後までのステージ1、1週間後から翌日までの24時間のステージ2に分けられ、それぞれ25分の間に18ほどの想定が盛り込まれており、目まぐるしく変化する状況に対応する必要がある。T-メソッドは知識や手順を教える研修ではなく、あらかじめ正解が用意されているわけではないので、混乱状況にあっても自分自身で判断・行動することを求められる。こうした手法により、自分の能力の限界と可能性を自己認識し、その後の平常時の業務においても態度変容をもたらすことが研修の狙いだ。これは、日常の備えがなければ、適切な危機管理などできるはずがないという開発者の体験に基づいている。
写真は東灘区役所グループに指定されたメンバー。画面中央はオブザーバー。

地図と付箋を使って災害状況を把握する。
記者会見によるメディアトレーニング
ステージ1,2終了後、グループ作業の発表を記者会見の形式で行うことも、T-メソッドの特徴の1つで、これは自治体が苦手とされるメディア・トレーニングも兼ねている。発表側は、記者から厳しい質問を受けることで安易な評価を避け、説明責任を果たす体験ができ、記者役は自治体の活動を客観的に観察し、市民やメディアの視点を体感できる。記者会見タイムには、チーフ・トレーナーの高橋氏が老練の記者役として登場し、2人の区長に厳しい質問をぶつけるなど、実際の記者会見さながらのシーンが展開された。

記者会見に臨む区長役の参加者たち
ロールプレイの評価・感想
参加者からは、「危機になるとこれだけ多くの状況が次々と襲ってくるのだと実感した」、「この研修を受けているのといないのでは、実際の危機対応に必ず違いが出てくると思う」といった感想が寄せられた。今後、研修の成果をどう活用していくかについては、「災害時の自治体職員の苦労がわかった。住民としての自治体との関わり方を見直すつもり」、「自分が働いている企業のクレーム対応などに、ここで得られた気づきを生かしたい」といった声があがった。実生活ではメディアの仕事をしているという参加者は、「取材を受ける立場になってみて、マスコミがいかに被災地の時間を奪うのかがわかった」と話した。
iSPPは、このロールプレイ危機管理研修を防災教育に役立つものとして高く評価している。今後は、一般市民や青少年なども緊急時に自主的に情報を収集・共有し、適切な判断と行動ができるような啓発プログラムの研究を進めていくという。
高橋正幸氏プロフィール
平成7年の阪神・淡路大震災に際し、62神戸市斎園管理協会総務部長として遺体火葬業務の現場調整にあたり、その後、4年間にわたり仮設住宅の調整、被災者の自立支援の市責任者として被災者、行政機関、報道との連絡調整にあたった。その体験をもとに、神戸市新規採用職員危機管理研修の指導にあたり、平成14年度からはロールプレイ危機管理研修T-メソッドを考案・開発し、延13回実施。各種職員研修、JICAインドネシア教員研修、東京都葛飾区職員危機管理研修(2009年~延6回)等でT-メソッド研修を指導。また、東日本大震災神戸市支援員、阪神淡路大震災1.17のつどい実行委員会事務局長、日本ボーイスカウト兵庫連盟副コミッショナーとしても活動。来春からの本格的展開を目指し、自治体危機管理研修所を立ち上げた。
情報支援ブロボノ・プラットフォーム(iSPP)
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