阪神淡路・中越・東日本、3つの震災から見えてきたICTの課題【防災・災害復旧ICT活用セミナー】報告

防災・災害復旧ICT活用セミナー

中越地震発生から7年目にあたる2011年10月23日、災害時におけるICTの活用をテーマにした『防災・災害復旧ICT活用セミナー』が新潟県十日町市で開催された。会場となった十日町市は、中越・中越沖地震に続き、今年だけでも豪雪、東日本大震災と長野県沖北部地震、新潟・福島豪雨と立て続けに自然災害に見舞われたが、それ以前から、地域内に多くのICT関連事業者があることから、防災対策にICTを取り入れるためのより具体的なノウハウの構築を目指してきた。セミナーは、東日本大震災の被災地支援を目的に発足した情報支援プロボノ・プラットフォーム(iSPP)と十日町地域の情報化を推進する妻有ネットフォーラムとの合同で開催され、中越・中越沖地震、阪神淡路大震災、東日本大震災を体験し、ICTを活用を模索する関係者らがそれぞれの活動について報告、さらに将来的な大災害に対してどのような備えをすればいいかが話し合われた。

情報行動調査で示す災害時のICT利用実態

前半は情報共有として、iSPPが行った東日本大震災における東北3県(岩手・宮城・福島)の情報行動調査について代表理事の会津 泉氏が報告した。続いて同代表理事の酒井紀之氏が津波に襲われた各地の被災状況を説明したうえでICT活用状況について捕捉した。ICTが普及して初めての広域災害であったことから現地での情報活用度は高いと思われたが、行政ホームページにアクセスが殺到してウェページがダウンしたり、津波によって情報拠点そのものが壊滅したり、大規模災害での情報インフラの弱さも浮き彫りになった。また、口コミ情報に頼る人が少なくなかったというICTの存在を根底から考えさせられる結果も報告された。

データを有効に活用できない行政の現実

新潟大学の災害・復興科学研究所に所属する井ノ口宗成氏からは、阪神淡路大震災をきっかけに注目されるようになったGISの活用事例が紹介された。中越地震の経験から新潟県では地図作成班を庁内に設置し、緊急時には通水復旧図に被災状況の変化といった複数のデータを地図上で可視化できるようにし、地区を超えた支援活動につなげている。国交省との調整で本格的な運用を目指し、さらに阪神淡路のデータを元に災害復興公営住宅の必要戸数をシミュレーションするなどの応用が模索されている。しかし、技術はあるものの、ベースとなる情報を提供する現地行政の情報提供手段が未だにFAXのみだったり、エクセル表のフォーマットがバラバラだったりと、有効活用できないのが現状だ。また、GISはオープンソースやマッシュアップで利用しやすいものもあるが、行政側がそれらに対する不信感が強く、新しい技術が登場する一方で、活用するための教育や啓蒙活動も必要不可欠になっているという。

変動する情報の記録と新しいICTのデザイン

阪神淡路大震災の発災時、神戸市広報課の職員として市のホームページを使った情報発信を行った松崎太亮氏は、インターネットやデジカメ、ケータイがほとんど普及していなかった当時も今も災害下の現状に大きな変わりはないと指摘する。行政からの支援で被災地に赴いたところ、避難所の情報共有は紙と電話が基本でパソコンもインターネットもほとんど使われておらず、結局はラジオが一番の情報源にだった。ただし大切なのはデジタルかアナログかではなく、状況をリアルタイムに記録しておくことが大切だという。一方で行政の事務処理は、復旧、復興、通常業務で作業量が膨大になるため、ICTを活用して効率を高めなければならないとしている。ハードも含めたICTのデザインを見直しも合わせて必要で、行政が共通BCPを作る方向で支援しなければ間に合わないと指摘する。

地域の自主防災組織と十日町市の取り組み

後半は前半の発表者4名に、十日町市の自主防災組織「NPOセーフティネットぼうさい」の代表を務める尾身誠司氏と、十日町市総務部総務課情報の佐野誠市氏が加わる形で「将来の災害に備えての情報行動のありかた」をテーマにパネルディスカッションが行われた。まず最初に十日町市での事例として尾身氏が発言。災害時においては地域コミュニティ単位での相互支援と情報共有が大切だとし、NPOではワークショップやディザスタイマジネーションゲーム(DIG)など、現場が考える防災教育を実施していると紹介。ICTの活用については、携帯電話で双方向で情報を得るシステムを試験運用した結果、効果が得られるとわかっているものの、年齢が高く携帯電話が使えない世帯も多く、利用者が増えないという課題に直面しているという。 続いて十日町市の情報インフラについて佐野氏から、地デジ化や光ケーブルの配線、衛星携帯電話の準備も行っているとの説明があった。中越地震の際にも情報サーバーは無事だったが、PDF等で情報を発信していたためトラフィックに負荷がかかり、対策として災害時に取り扱うコンテンツの見直しも検討しているようだ。

救援か情報発信かを問われる自治体、防災教育の重要性を再認識

話題は、情報の集約および発信源となる行政の体制のあり方についても及んだ。十日町市では情報基盤とネットワークの確立は総務課が担当し、インフラを二重構造化して被災情報は統合型GISを利用するなどの対応をしている。さらに、防災課に集まった情報を広報課が整理し、発表を一元化している。 神戸市では危機管理を担当する部署の横に記者クラブを置くことで、行政とメディアの協業がクリアに行われたという。しかし、現実に災害に直面したら、場合によっては情報を発信するよりも救援のために職員を派遣するかもしれないという指摘もあり、実際に宮城県名取市では行政関係者もほとんどが被災者であり、亡くなった方が900名余りもいるのに対し、300名の職員で対応せざるをえなかった。十日町市も被災地の行政と災害協定を結んでいたが、長野県北部地震で自らが被災地になり、双方共に支援ができなかったという。行政の防災教育活動を行っている松崎氏からも、政令指定都市は相互に災害防災協定を結んでいるが、災害が起こるたびに課題が増え、すべて対応するのが難しくなっているのが現実だとのコメントがあった。

ほかにも、支援策を検討するに際しては、地理、習慣、災害の種類など、様々な要素を考慮する必要があるなど、話題は広がっていった。結果的に言えるのは、行政やシステムに頼るだけでなく、自分の命は自分で守るのが基本であり、防災教育を地域に取り入れるなど長い目で定着させていくしかないということ。パネルディスカッションは、次に支援にいくのは自分たちだという発想で自ら備えをすること、そのための経験と情報の共有ができる場を今後も皆で作っていかねばならないと、参加者全員が思いを新たにすることで締めくくられた。

 

防災・災害復旧ICT活用セミナー

http://www.funcs.net/~seminar1023/index.html

セミナー動画

http://www.ispp.jp/archives/892

東日本大震災 情報行動調査

http://www.ispp.jp/archives/839

http://www.impressrd.jp/news/110930/iSPP