取材・構成/錦戸陽子●インプレスR&D 白書・書籍編集部
iCommons Summit2008 レポートの第2回目は、大手メディア企業とコンテンツ事業者のスピーチを紹介する。一人目は日本を代表するコンテンツ事業者、角川グループを率いる角川歴彦氏である。2人目はアラブを拠点とするテレビ局「アルジャジーラ」でインターネット事業を担当するモハメド・ナナバイ氏のスピーチである。
<<第1回 「社会のイノベーションとしてのフリーカルチャーとコモンズ」
ネット時代に合った著作権法の改革が必要
Web2.0で日本のIT産業の失敗が明確になった
角川歴彦氏
角川グループを率いる角川歴彦氏は最終日に登壇し、自身が考える著作権法のあり方と、コンテンツ事業者としての取り組みを語った。
角川グループは映画、出版、アニメと日本のコンテンツ産業で大きなシェアを握るコンテンツホルダーであり、また多くの作家の権利を預かる立場でもある。角川氏は日本のインターネットについて、世界で最も安くて速いブロードバンドを定着させることに成功したが、グローバルな事業者が存在せず、「産業としては失敗」したと指摘。その理由として、技術は高水準にあるものの事業の組み合わせで失敗していることと、日本の著作権法が足かせになっていることを挙げた。90年代までこの傾向は明確ではなかったが、2000年代に入り、Web2.0の時代が到来してから、失敗が「誰の目にも明らかになった」。
無対物を前提に著作権法は改革すべき
角川氏は、有体物の複製権を規定した現在の著作権法を改革し、無対物(ネットコンテンツ)を前提にした新しい著作権法を創設することが産業振興につながると考えている。角川氏も議論に参加した「知的財産推進計画2008」では、2008年度中に次の4点の法的措置を講ずるとしている。
- 検索サービスの適法化(日本の著作権法上問題となる公衆送信可能化権や複製権の侵害をしないようにする措置)
- 通信過程における一時的蓄積の法的位置付けの明確化(サーバーへの蓄積を可能にする)
- 研究開発に関わる著作物利用の適法化
- コンピュータプログラムのリバースエンジニアリングの適法化
また、包括的な権利制限規定の創設(日本版フェアユースの考え方)、ネットワークのコンテンツ流通の新たな枠組みなども議論されている。
ユーチューブは「コミケ」、合法化する手段が必要
角川グループは、現在、映画館などの一次流通やパッケージ(セルとレンタル)のほかに、デジタルネットワークとして特にユーチューブやニコニコ動画、モバイルはプロモーションとして使っていくという意思がある。
角川氏はユーチューブを初めて見たとき「日本のコミケ(コミックマーケット)と同じだ」という印象を持った。海賊版と言われるものが堂々と流通するコミケの中に、育てれば将来大きく活躍する人たちがいる。それと同じようなものだと考えたという。
しかし、角川プロデュースのアニメ作品が多く使用されているのは現状では権利侵害に当たる。そこで同社は「合法化」するためのシナリオを提供することにした。大量のCGMを調べ、投稿者に対してメールを送る。作家がいやがるものは警告するだけだが、作家がリストペクトされている使い方であれば公認バッジを送り、著作権処理は角川に任せてほしいと連絡している。認定条件は10パターンあるが、大きくは「コンテンツに対する尊敬があればよい」。投稿に広告費をペイバックすることも行っている。
角川氏はこうしたCGMの隆盛を法律によって下支えする仕組みが必要だと話す。さらに角川氏は権利者とユーザーの調和をいかに実現するかが著作権法の重要課題であり、作品のオリジナリティを保護しつつ、それを活用する他者をどのように「合法化」するかが成功のポイントになると語った。
厳しい環境でも報道し続けるのが「アルジャジーラ」の精神
メディアの多様化で作り手と受け手にギャップ
モハメド・ナナバイ氏
アラブ諸国のTVネットワーク「アルジャジーラ」のモハメド・ナナバイ氏は、「メディア企業おけるコモンズ」と題してスピーチを行った。
アルジャジーラはアラビア語と英語で24時間放送している衛星放送局だ。ニュース以外にもスポーツチャンネルや子ども向けチャンネルなどを持ち、62の支局で約3000人が働く大きな組織である。アフガニスタンやイラクでの戦争報道で知られている。
ナナバイ氏はまず、放送業界をとりまく環境が激変しており、特に新しいプラットフォームの台頭によってテレビがこれまでの聴衆を失っていると指摘した。特に30歳未満のテレビ離れは激しく、親の世代と子どもの世代ではメディアの使い方、共有の仕方が違っており、ゲーム機やケータイなど多様な形でアクセスされるようになったことでメディアが分断されているという。
親はCNNを見て初めてニュースを知るが、子どもは別のメディアで親よりも先にニュースを知り、しかもCNN自体を知らないという漫画の一シーンを紹介。30歳以下の世代はグーグルニュースであうとフェイスブックであろうとポッドキャストであろうとよい。さまざまな媒体を介するたびに情報の形が変わるため、そのニュースがどんな作り手から届けられたものかわからないことも多い。現実には作り手と受け手の間には大きなギャップが生じているのではないかと分析した。
コンテンツが循環するからライセンスが面白い
コンテンツの作り方も変わった。ジャーナリストが現場に行って報道するだけではなく、普通の人がケータイカメラで撮った写真がその場でインターネットに送信される。また、映画であり音楽であれ、既存のコンテンツもオンライン化はさけられない。多様な媒体を通って変化したコンテンツをまた受けとった側がリミックスする。いろんなメディアや人の手を通り、ひとつの循環が生まれている。
今までの放送・出版とはまったく異なる循環だが、ナナバイ氏はこのような状況だからこそ、コンテンツのライセンスをどうすべきかという話が面白いのだと語る。ネットワークのつながりをもとにしたコンテンツの送受はその間の信頼が大事になってくる。コンテンツをどのようにして有効に機能させるか、そして経由した人たちの権利をそれぞれを尊重することが課題だと述べた。
理念だけでビジネスは動かない
ナナバイ氏の所属するアルジャジーラは大手放送局であるため、ネット事業に関しては抵抗する人も多い。会社でフリーカルチャーやコモンズの素晴らしさを訴えたところで関心を持ってもらえない。
ナナバイ氏はビジネスは理念で動くのではなく、「何かをしたい」という気持ちで動くことが基本である。だから小さく始めて前例を積み重ねていくことでトップを説得していくと話す。
たとえば、オンラインのパイオニアであることは組織の評判を向上することにつながる。配信面では、同社にとって英語市場は新しい巨大なマーケットであり、ユーチューブに映像170万が人見たことは大きな実績となった。
放送局としての収益モデルは定まっていない。無料モデルと広告だけでいいのかという問題がある。ただ、一般には無料で公開しても、多くの人に見られることによって他の放送会社から注目され、ロイヤリティを増やすことができるのではないかと考えている。現在は戦略的な目標を立て、ひとつひとつ達成していくことにしている。
真実を伝えることがジャーナリズムの役割
アルジャジーラとしては、今後、コモンズを支援するなどコミュニティへのエンパワーメントを積極的に行いたいと語る。自分たちの関与により、他のクリエイターが何らかのメリットを得られるようにすることが重要だと考えている。そしてプロとアマの境界があいまいになってきた中、放送局としての役割は何か、自分たちは何ができるのかと自問自答している日々だという。
ナナバイ氏は最後に戦争で命を落とした記者やカメラマンの写真を掲げ、これがジャーナリズムのコミットメントであり、われわれの役割は真実を伝えることであると述べた。「厳しい環境でも報道し続ける」ことがアルジャジーラが本来持っている精神であり、これからもテレビ局として多くのストーリーを伝えていきたいと締めくくった。

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