FSV #46 Amazonへの挑戦(3)Amazonの物流と配送業者の戦い、その上を行くかSitoa
米国企業IT戦略レポート~フロム・シリコンバレー
森 洋一(テクノロジーリサーチャー)
シリコンバレー在住の森洋一氏による、米国企業を中心としたITビジネスとテクノロジー戦略の最新レポート。オープンソース、マイクロソフト、エンタープライズといったテーマについて現地の視点から考察していきます。
今回は、Amazonの物流システム・サービスを迎え撃つ配送業者と、それらに挑戦する企業、Sitoaについて。
Amazon.comのファウンダーでありCEOのジェフ・ベゾス(Jeff Bezos)氏の夢はITインフラの活用だけではない。自社の物流システムそのものを売り出し、さらにAmazon Web Servicesの一環としてコンピュータとの連動も可能とした。これを迎え撃つのはDHLやFedExなど既存の大手配送業者と、独自路線を切り開くスタートアップである。
Amazonの物流受託サービス(FBA)
Amazonが始めたFulfillment By Amazon(FBA)とは物流の受託サービスである。
このサービスの始まりはAmazonサイトで商品を販売するパワーセラー向けのものだったが、改良されて一般中小企業向けとなった。利用企業はまずFBAプログラムに参加し、商品カタログをAmazonの規約に則って整備、その上で同社の物流センターに商品を送って保管してもらい、販売が成り立った時点でAmazonの物流システムを使って配送する。
振り返ってみればAmazonのスタート当初、物流の整備は大きな課題であった。オンラインサイトの開設はともかく、物流システムの整備には大きな投資が伴う。インターネットの仮想空間によるビジネスと物理的な配送システムの構築、これがビジネスとして両立するのかが不安視された。事実、2001年、Amazon自身がサイト内にコンピュータ・ショップを立ち上げたときには、この問題を避けるべく、全米最大のハイテク機器卸業Ingram Microと提携し、配送や在庫管理などの物流システムを代行してもらったほどだ。
その後、Amazonのビジネスが軌道に乗って、物流システムも整備され、余力を他企業に使ってもらおうとFBA(2006年9月)が始まった。この業務を取り扱うAmazon物流センターでは委託管理する商品全量の合計寸法から保管料を計算し、配送では商品区分別に1件当たりの手数料を請求する。これら商品の登録や保管、出荷指示などのやり取りはAmazonが用意したウェブサイトAmazonセラーセントラルを通して行われる。

Fulfillment By Amazonの流れ。
FBAをWebサービスで連動させるFWS
Amazonの始めたFBAは好評だったが、問題はセラーセントラルを介した人手によるオンライン処理であった。この課題解決のため、3月21日、直接自社コンピュータシステムに組み込むことができるAmazon Fullfillment Web Service(FWS)が発表された。このサービスはFBAプログラムの参加企業は無料で受けることができる。また、FWSにはインバウンドとアウトバウンドがある。インバウンドはメンバーとなった利用企業の商品を在庫として物流センターに送り出す処理で、これによって出荷準備が整う。アウトバウンドでは、取引が成立するとただちにAmazonの物流センターに注文指示と出荷要求が送られ、顧客から注文された商品が梱包されて送り出される。配送後の商品の追跡はもちろん可能だ。つまりFBAが物流サービスの第1弾であり、コンピュータインテグレーテッドのFWSが第2弾である。
迎え撃つ配送業者たち
Amazon FBA/FWSを迎え撃つのはDHLやFedEx、UPSなどの大手配送業たちだ。
とは言っても取扱量では比較にならない。AmazonがITに強いのなら、一方、物流は彼らの専門領域である。そしてAmazonの進出と彼らの対応は必ずしも競合するわけではない。注文を受けた商品のピッキングから配送、さらに代金決済までをフルフィルメントとすると、Amazonが得意とするのはITを核とした商品受注と在庫管理やピッキングまで、翻って配送業者が得意なのはどちらかというとその後の流れである。もちろん、この2つは幾分ダブっているので競合関係にはある。さらに、共に決済などはクレジット会社や銀行など外部企業との連動となる。以下は大手配送業者の主な対応である。
- DHL…WebShip/CorporateShip
国際物流大手のDHLではコンピュータを利用したサービスをDHL WebShip & CorporateShipとして提供している。WebShipはパワーユーザーや中小企業向け、CorporateShipは一般企業向けのサービスだ。もちろん、商品のスケジュール付き受け取りから始まり、相手方への配送、その間のトラッキングなどが可能である。企業向けのサービスでは、チーム・オペレーションができるし、運用管理者は事前の設定や全体の配送状況が掌握できる。
- FedEx…eShipping/eCommerce Solutions
FedExのeShippingの場合は、専用のFedEx Shipping Managerをダウンロードして使用する。このソフトウェアによってFedExオンラインと接続するだけでなく、ローカルでのアドレスブック管理、ラベル印刷、分割出荷、出荷履歴管理などが可能となる。さらにより効果的な配送システムのためには、ユーザーシステムとFedExをインテグレーションするeCommerce Solutionsも用意されている。これを使えば2つのシステム間をほぼ完全に統合できる。
- UPS…UPS Online/UPS Supply Chain Services
UPSの場合もUPS OnlineとしてJava/C#/.NET/Visual Basic/C++用に用意されたAPIで自社システムとインテグレーションできる。これによって人手を介さずシステム間で料金&サービスの選択、配送住所の存在確認、そして配送に係る各種の条件設定が可能となる。さらにUPS Supply Chain Servicesを使えば自社システムと連動させて、物品/情報/資金の同期化、さらに通関処理、陸/海/空の3つの輸送を統合させることも可能だ。
奮闘するオンライン・サプライチェーンのSitoa
Amazonと配送業者の動きを尻目に、独自の方法でその上を狙う会社がいる。
Sitoa(設立1999年、本社サンマテオ)は、ウェブで商品を販売するeリテーラーと商品を供給するプロダクト・サプライヤーをシームレスにつなぐ“eテーリング(e-taling)”を開発した。このエンジンによって、全米著名なeリテーラー各社と膨大な数の商品供給サプライヤーがオンラインで自動的に連動する。まさに複数企業の参加による売り手と供給の大規模サプライチェーンの登場である。
売り手となるeリテーラーには米小売り最大手の衣料雑貨ウォルマートや続くTarget、Kmart、Sears、さらに各社とも業界最大手であるデパートのMacys、会員向けディスカウント販売Costco、DIYのHomeDepot、ホームショッピングの元祖HSNなどが参加、驚くことにAmazon.comもメンバーとなった。これら参加サイトの合計取引件数は1億2,500万件/月となり、強力なパワーを持った販売軍団の組織化である。
対するサプライヤー側にはハイテクのAcer、キヤノン、HP、レノボ、サムスン電子、ソニー、東芝など、家電ではJVC、Haier、パナソニック、フィリプス、RCA、シャープなど、ヘルスケアではジョンソン・エンド・ジョンソン、P&G、Revlonなど、スポーツ用品ではChampion、Spalding、Wilsonなど1,000社以上が参加した。
Sitoaプラットフォームを利用した取引の流れを見てみよう。
まず論理的には、ユーザーがオンラインで商品購入をするとeリテーラーからSitoaに注文指示が出る。Sitoaは当該商品をメーカーから購入・受領し、それをeリテーラーに再販売、eリテーラーはユーザーに商品を届ける手順となる。ただ、これでは普通の流れとなって何の魅力もない。実際の流れでは、まず、Sitoaプラットフォームには取扱商品別に電子カタログがあって、サプライヤーは自社商品をその仕様に従って登録する。現在のカタログには10万点以上の商品が登録されているという。
このカタログの細目はともかく大分類は、(1)コンピュータ、(2)オフィス用品、(3)エレクトロニクス、(4)スポーツ用品、(5)ビューティー&ヘルス、(6)家庭用品など6区分だ。一方でオンラインショップのeリテーラーはカタログのどの分野を扱いたいかを指定する。これによってSitoaから指定分野の登録商品群がeリテーラーに自動的に送り込まれる。この結果、たとえば、あるメーカーのパソコンがSitoaプラットフォームを通して複数のeリテーラーのサイトに表示されて販売されることになる。もちろん、この際、eリテーラーはサプライヤーの希望価格ではなく、売り出しなど独自の価格をつけたり、不要な商品を削除することもできる。ユーザーが商品購入を決定すると、その注文情報は直ちにSitoaに知らされ、Sitoaからサプライヤーに出荷指示が出る。この際、Sitoaプラットフォームからは注文を受けたeリテーラーのロゴ入り出荷ラベルなどがサプライヤーに伝送される。注文を受けたサプライヤーではこのラベルを当該商品に貼って、自社のこれまで行ってきた方法(自営配送や宅配業者経由)でユーザーに送り出す。もちろん、出荷やトラッキング情報はeリテーラーに戻され、まさに自分で注文を受けて配送したのと同じ状況となる。

Sitoaプラットフォームを介した実際の流れ。
Sitoaのビジネスモデルは一連の処理の中でeリテーラーからの手数料ではなく、サプライヤーから商品を買い取り、eリテーラーに再販売するので、その差分となるマージンが収入となる。eリテーラーから見ればSitoaを利用することで自動的に扱い商品が増え、サプライヤーは複数の販売チャネルを得ることができる。これが同社のバリュープロポジションである。
システム的には、Sitoaプラットフォームとサプライヤーやeリテーラー間の接続は複雑多岐である。このため、同社では各種の標準化やデファクトのプロトコルをツールとして用意し、それでも独自のものは同社のコスト持ちで開発すると説明する。
Amazonが始めた物流システム・サービス。迎え撃つ配送業者たち。そしてeコマースから生き残ったSitoaは、独自のアイデアでその上を狙う。既存店から出発したオンライン販売がブリック&モルタルなら、配送業者の対応はその典型的なものだ。これに対しAmazonの場合は実業の余力をサービスとして戻す逆のアプローチである。同社にとって、この流れが確立できれば新しい収益源となる。Amazonと配送業者、彼らが棲み分けていくのか、そしてSitoaなど新たなチャレンジャーがビジネスとして成功するのか、ここ1~2年が勝負だ。
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森 洋一(もり よういち)
IAF Software, Inc. Partner。米国シリコンバレー在住。明治大学卒。日本ユニシス入社後、金融機関向けリアルタイムシステムの設計と開発、流通マーケティング/オープンシステムマーケティングなどに携わる。2002年に退社。シリコンバレーにオフィスを開設し、テクノロジーリサーチャー/コンサルタントとして活動。著書に『オープンシステム・ウォーズ』『シリコンバレーからのメッセージ』(ともにオーム社)があるほか、雑誌、新聞などにも数多く寄稿。株式会社インプレスR&D シニア・アナリスト。






