オートポイエーシスとは (autopoiesis) 用語解説

「ウェブサイエンス2.0胎動 用語解説」(森田 進)

用語:オートポイエーシス(おーとぽいえーしす)
英語:autopoiesis

※2008/03/17 加筆修正しました。

オートポイエーシスは、チリ出身の神経生理学者マトゥラーナ(Humberto R. Maturana)とヴァレラ(Francisco J.Varela)が、トポロジカルな理論生物学によって自律的・自己言及的・自己構成的なシステムを説明するために1970年代半ばあたりに編み出した理論である。アリストテレスが認識学習と行為表現のための重要な概念として「テオリア(観照・学問知識)、プラクシス(社会哲学・倫理学)、ポイエーシス(制作)」という3つのスコープを設定したが、そのうちのポイエーシスに注目して、そこにオート(自己)を接合させた造語である。

オートポイエーシス・システムは、システムを自己決定しているシステムであり、みずからの構成要素と相互作用しながら作動することでみずからの構成素を次々に産出している自己言及システムである。マトウラーナとヴァレラは、神経システムを典型例として理論形成し、のちに生命システムー般の機構に拡大していったが、ドイツの社会学者ルーマン(Niklas Luhmann)はこれをさらにシステム全般の機構として普遍化した。

オートポイエーシスによるシステムの理解を要約すると次の通りである。

  1. システムの本性は動きの継続であり、「自己を形成する機構を含む機構」である。システム自体で作動を継続する機構を含み、かつ、生成プロセスをつうじて産出した要素は作動の継続のなかに巻き込まれている。
  2. システムの構成要素は「入力、出力関係」で決定されるのではなく、「作動の継続との関係」で規定される。
  3. システムの作動は、システムの意図やシステムの目的に依存することはない。システムの作動の継続がシステムの境界を規定し、あらかじめ「システムの内一外」を区分することができない。この範囲は、「システムの動きをつうじて固有化」し、連続的に変化していく。

オートポイエーシスは、河本英夫氏の論旨を借りるならば、第一世代から現在の第三世代に至るシステム論の発展の系譜をたどってきた。

すなわち、ウォルター・キャノンが提唱した「ホメオスタシス」という概念を先駆としながら、動的平衡を保つためのオーガニズム(動的平衡システム)の探求、いわゆる動的平衡の結果である”関係”に力点がおかれていた第一世代のシステム論。「散逸構造論」や「ゆらぎ」という新たな概念形成をもとに、外部環境と物質代謝やエネルギー代謝をしながら、自律的に階層を生成していくことこと(自己組織化概念)の探求、いいかえれば”関係”よりも”生成”や”秩序形成”に力点が置かれるようになった第二世代のシステム論。さらにこれら第二世代システム論の多くの諸成果を援用し、生命系はじめ一般のシステム理論として諸領域にも適用され、拡張を遂げてきた第三世代のシステム論という具合である。

第三世代のシステム論展開においては、ドイツの社会学者、ニクラス・ルーマン(Niklas Luhmann)が「社会システム理論」を発表して社会システム全般にオートポイエーシス概念を大胆に導入して以降に広まっていったオートポイエーシス理解(いわゆるルーマン研究の延長上にあるオートポイエーシス理解)が重なってくる他、法学、精神科学、心理学、工学、経営、美学など、自然科学以外の分野でも精力的にオートポイエーシスの導入・解釈・拡張が行われてきた。なかでも河本英夫氏の卓抜した創発的な構想力と啓蒙・プロデュースには目を見張るものがある。

なお、オートポイエーシス研究(オートポイエーシスの議論)がもっとも盛んなドイツでも、オートポイエーシスの理論展開や解釈には幅が認められる。また、ルーマンは影響力のある思想家であるだけに、ルーマン解釈、オートポイエーシス解釈にも大きな幅が生まれつつある。まさしく、「第三世代システムは、これから形成される(河本英夫)」のである。

システムがそれじたいで実現して行く多元論、それぞれが動きをつうじて連続的に多元性が出現するオートポイエーシスの様態、また、システムの産出した構成素が、構成素問の接続によって界域をなしたとき、そのことによってシステムにとっての空間が形成されるという特徴はWeb2.0の思想と馴染み易いと思われる。

また、Web2.0において、ウェブコミュニケーションの連続的産出がなされれば、それは社会システムとなって作動を継続するというメタファーが成り立つ。さらに、オートポイエーシス理論では、創発は新たな発現なのではなく、創発そのものがシステムの本質であるとみなしており、生粋の自己創発システムとして登場しているが、この点でもWeb2.0の動向と共通点が見出せる。

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