FSV #33 OpenOfficeの世界(1) Lotus Symphony登場

from Silicon Valleyティザー画像

米国企業IT戦略レポート~フロム・シリコンバレー

森 洋一(テクノロジーリサーチャー)

シリコンバレー在住の森洋一氏による、米国企業を中心としたITビジネスとテクノロジー戦略の最新レポート。オープンソース、マイクロソフト、エンタープライズといったテーマについて現地の視点から考察していきます。

今回は、IBMから登場した、Lotus Symphonyのベータ3について。


IBMからOpenOffice.org(以下OOo)ベースのLotus Symphonyのベータ1が登場したのは昨年9月のこと。そして1月18日、ベータ3がリリースされて日本語対応が可能となった。正確にはこれまでの版でもOOo自身は日本語対応となっていたので、ベータ3ではSymphonyのメニューやヘルプが日本語になった。

Symphony登場の背景

Symphonyの登場について経緯を説明しよう。

昨年8月中旬、IBMからLotus Notes/Domino 8が発表された。このバージョンではAjaxやJSONなどWeb2.0技術や各種のコラボレーションが強化されたが、目玉の1つが新オフィス・スイートであった。

Lotus Notes(以下Notes)が世に出たのは1989年。Lotus_1-2-3を開発したLotus Developmentの子会社Iris Associatesでレイ・オジー(Ray Ozzie)氏(現マイクロソフト チーフソフトウェアアーキテクト)が開発した。NotesはEメール、掲示板、データベース、スケジュールなど今で言うコラボレーション機能を持ち、すぐに評判となって、1995年にIBMが買収した。当時のNotesのオフィス・スイートは、文書作成がLotus Word Pro、表計算はLotus 1-2-3、プレゼンテーションはLotus Freelanceなどだ。その後Notesは大手企業を中心に華々しく普及したが、オフィス・スイートではMicrosoft Officeが市場を寡占し、IBMは巻き返しのチャンスを狙っていた。

昨年9月、ISOの全体投票でマイクロソフトのOffice Open XMLが否決本連載の第16回を参照)され、ODF(OpenDocument Format)を押すIBMにチャンスが訪れた。この投票は最終結論ではなかったが絶好のタイミングだった。9月10日、IBMは正式にOpenOffice.orgへ加盟し、9月17日、この日のために準備していたOOo 2.3ベースのLotus Symphony(以下Symphony)をリリース。OOoには文書「Writer」、表計算「Calc」、プレゼンテーション「Impress」、描画「Draw」、データベース「Base」、数式エディタ「Math」があるが、Symphonyは文書/表計算/プレゼンテーションの3つを切り出し、すでにISO標準となっているODFとNotesオリジナル、さらにMicrosoft Officeの3つのフォーマットをサポートする。たとえば文書フォーマットでは、(1)OpenDocumentテキスト(.odt)、(2)IBMワードプロセッサー文書(.sxw)、(3)Microsoft Word 98/2000/XP(.doc)といった具合だ。

リクワイアメントとインストール

SymphonyにはXPとVista対応のWindows版とLinux版(SLED 10とRHEL 5)がある。ディスクサイズはWindowsで540MB、Linuxでは750MBが必要だ。筆者の場合は英語版のWindows Vistaに乗せた。以下はその結果である。ダウンロードにはIBMのユーザーIDが必要だが、なければ氏名など必要項目を記入すればOKだ。ベータ3から日本語を含め23か国語がサポートされているのでダウンロードの初期画面でランゲージパックを「Japanese」とし、後はメニューにまかせよう。OOoのサイズがもともと大きいので時間はややかかるが、ほぼ自動的にダウンロード→インストールと進むはずだ。

インストールが終わり、Symphonyが立ち上がると初期画面(下図)が現れる。

提供されるアプリケーションは大きな丸でシンボライズされた(1)文書ドキュメント「Lotus Symphony Documents」、(2)プレゼンテーション「Lotus Symphony Presentations」、(3)表計算「Lotus Symphony Spreadsheets」、これが正式な名称である。言い忘れたがLotus 8はブラウザーの要らないRIA(Rich Internet Application)を可能とするEclipse RCP(Rich Client Platform)ベースとなったのでかなり優雅な使い勝手となった。

Lotus Symphonyの初期画面。
Lotus Symphonyの初期画面。

SymphonyとOpenOfficeの違い

初期画面のシンボルマークをクリックしてSymphony Documentを立ち上げ、その画面を見ると中身はOOo Writerそのままだが、周りのガイドなどが何やら異なっているのに気づく。

Lotus Symphony Documentの画面。
Lotus Symphony Documentの画面。
Open Office Writerの画面。
Open Office Writerの画面。

2つの文書作成ツールを比較してみると、最上段のメニューは字体の相違はあるものの内容は同じだ。しかしSymphonyにはその下にマルチファイルのタブがあり、ツールバーはさらにその下にある。つまりメニュー/ボタン類の構成はOOoの2段から3段となり、それらはEclipse RCPで作られている。

1つ目の違いはWriterにはなく、Symphonyに追加された2段目のタブ。

これはMozilla Firefox 2で開発、その後Internet Explorer 7でも採用した複数ファイルの切り替え用。しかも文書だけでなく、表計算やプレゼンが混在でも構わない。考えてみれば当たり前だがOOo自身が大きな塊のソフトウェアで、エントリーだけが分かれているからできることである。

2つ目の違いは右側にあるプロパティ欄。

このプロパティのレイアウトは何やらMicrosoft Officeに似ているが、(1)テキスト、(2)ページ、(3)段落の3つのオプションがあって、テキストではフォントやサイズなど、ページでは縦横やページレイアウトなど、段落では配置揃えや行間隔などが設定できる。

3つ目の違いは3段目のツールバー。

この部分はIBMが変更したもので、一部は前述のようにツールバーから外れてプロパティ設定に移り、残りはOOoの機能をSymphony風にアレンジしたものである。そして2段目のファイルタブを切り替えると、そのファイルが文書であればそれに設定されているツールバーになり、表計算ならまたその設定に変わるという芸当を見せてくれる。

Open Office Impressの画面。
Open Office Impressの画面。

期待と不安

このようにLotus SymphonyはOOo2.3をベースにしながらも生まれ変わった。

1月21日から開かれたLotusphere2008カンファレンス(フロリダ州オーランド)ではSymphonyのベータ4が近々リリースされること、また開発コミュニティで進んでいるWebSphere Translation Serverのプラグイン化が話題となった。これができればSymphonyで作成したコンテンツを多言語に翻訳することが可能になるという。

これらの期待とは別に不安もある。

OOoコミュニティはサン・マイクロシステムズ色が強いが、多くのボランティアが活動している。SymphonyはそのオープンソースをベースとしながらもIBMはコミュニティには参加せずに開発した。このため、一部には後発の利を生かしたSymphony開発に批判の声もある。JavaにおけるNetBeansとEclipseの事例もあり、サンとIBMの仲も気にかかる。OOoの本流の開発はこれからも続く。OOoに正式に参加した今、IBMがどのようにOOoと協調しながらSymphonyを育てていくのか、その対応を見守りたい。


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森 洋一(もり よういち)
森洋一ポートレート写真IAF Software, Inc. Partner。米国シリコンバレー在住。明治大学卒。日本ユニシス入社後、金融機関向けリアルタイムシステムの設計と開発、流通マーケティング/オープンシステムマーケティングなどに携わる。2002年に退社。シリコンバレーにオフィスを開設し、テクノロジーリサーチャー/コンサルタントとして活動。著書に『オープンシステム・ウォーズ』『シリコンバレーからのメッセージ』(ともにオーム社)があるほか、雑誌、新聞などにも数多く寄稿。株式会社インプレスR&D シニア・アナリスト。