FSV #18 新コンセプトPCの登場(2) Linux搭載99ドルのZonbu PCとは

from Silicon Valleyティザー画像

米国企業IT戦略レポート~フロム・シリコンバレー

森 洋一(テクノロジーリサーチャー)

シリコンバレー在住の森洋一氏による、米国企業を中心としたITビジネスとテクノロジー戦略の最新レポート。オープンソース、マイクロソフト、エンタープライズといったテーマについて現地の視点から考察していきます。

今回は、前回の100ドルPC(OLPC)に続いて、わずか99ドルでの提供を実現した「Zonbu PC」について。


昨年できたばかりのスタートアップ企業Zonbu(ゾンブー)から、たった99ドル(詳細は後述)のデスクトップLinux機が出た。Zonbuの筐体は、手で掴めるミニ・コンパクト・サイズ(17.1センチ×12.1センチ×5.7センチ)、仕様は以下のようだ。

  1. インテル互換低電力CPU搭載(Intel-Compatible Ultra-Low Power VIA C7 ULV 1.2GHz)
  2. 記憶装置は512MバイトRAMとローカル・ストレージ用4Gバイトフラッシュ・メモリー
  3. モニターは無く、グラフィック表示は最大2048×1536ピクセル、MPEG2アクセラレーター付き
  4. キーボードとマウスは市販品を使用し、用意されたPS/2ポートに接続
  5. USBポートは6つ
  6. Ethernet接続は10/100Mbps
Zonbuコンピュータの前面(左)と背面(右)。※提供:Zonbu
Zonbuコンピュータの前面(左)と背面(右)。 ※提供:Zonbu

つまりZonbuには4GバイトのフラッシュだけでHDDが無い。

この先はどうするかというと、保存の必要なファイルはオンライン・ストレージ・サービスを利用する。すなわちフラッシュ・メモリーはキャシュとして機能し、本当のストレージはネットワークの先にある。そして巧みなことに、このストレージ・サービスは、同社のセンターではなく、実はAmazon S3(Simple Storage Service)を使用する。

Amazon S3とは、Amazonデータセンターの余剰パワーを使って昨年3月から始まった「Amazon Web Serviceプログラム」の一環だ。利用するデベロッパーはRESTやSOAPなどのWebサービスAPIを通して同社のストレージにアクセスする。しかし、これでは一般ユーザーには荷が重過ぎるので、この部分をZonbuが開発し、ユーザーは利用するだけだ。S3の特徴は、利用料金(後述)が格安なこと、そして99.99%という高信頼設計と暗号化が適用されている。Zonbuはこれらの機能を利用し、さらに128ビットの暗号化やファイル・マネージメントなどの付加価値を付けてユーザーに提供する。

File Manager。※提供:Zonbu
File Manager。 ※提供:Zonbu
Remote File Access Browser。※提供:Zonbu
Remote File Access Browser。 ※提供:Zonbu

実際のファイル管理では、File ManagerがWindowsと同様に機能して、Amazonデータセンターにある自分のファイルのコピーや削除などが自由にできるし、StartメニューからDesktop Searchを使ってファイルを探すこともできる。また提供されるWindows用の「Zonbu File Browser」を使えば、ID確認後、リモートから暗号化されたセキュアな状態でオンライン・ストレージのアクセスも可能である。

ソフトウェアを見ると、OSは「Gentoo Linux」だ。

その他、プリインストールのアプリケーションのほとんどはオープンソースで、Firefox(ブラウザー)、Evolution(メール&コラボレーション)、OpenOffice(文書、表計算、プレゼンテーション、データベースなど)、Pidgin(IM)、Skype(VoIP)、MPlayer(メディア・プレイヤー)、Banshee(ミュージック・ライブラリ)、F-Spot(フォト・アルバム)、Gimp(フォト・エディタ)、Nvu(ウェブエディタ)、Azureus/aMule/BitTorrent/eMul/eDonkey(P2P)、各種ゲームなど20種類以上が用意されている。Gentoo Linuxやこれらのアプリケーションは4Gバイトのフラッシュに収められているが、ただ、残念ながらアプリケーションの追加は自分ではできない。なぜかというと、GentooはパッケージングにRPM(Red Hat Package Manager)などのバイナリではなく、ソースコードを基本とするPortageを採用しているからだ。この仕組みはGentooの基本思想であり、ハードウェアの特性や用途にあった完全に独自なディストリビューションを作るためである。


Zonbu PCのアプリケーションや各種機能を紹介したムービー(5分29秒)。
Zonbuのウェブサイトでは、高解像度版や他のデモムービーが公開されている。

気になるビジネス・モデルを分析してみよう。

冒頭で「たった99ドル」と書いたが、この値段には仕組みがある。

まず本体正価は249ドル、これに最大のリベート(150ドル)が適用された時に99ドルとなる。

オンライン・ストレージ・サービスには4つのオプションがある。2Gバイトまでは無料、続く3つが有料(25Gバイト=月額12.95ドル、50Gバイト=同14.95ドル、100Gバイト=同19.95ドル)だ。さてリベートの適用だが、本体の249ドルに対し、3つの有料ストレージ・サービスのどれかを2年間契約で前払いした時のみ、150ドルのディスカウントが適用され、結果、99ドルとなる。そうではなくストレージ・サービスを毎月払いとすると、本体は249ドルのままで、それにストレージ料金が課金される。また、いずれのオプションの場合も自動ストレージ・バックアップとソフトウェア・アップデート・サービスは含まれている。

こうみると、契約によって本体を値引きし、毎月かかるストレージ使用料金で儲けるビジネス・モデルは、携帯電話に似ている。念のため、AmazonデータセンターのS3月額利用料金は超格安だ。データ保管は1Gバイトで15セント、データ転送は量により変動するが月額料金は10Tバイトまでが1Gバイト当たり18セント、プラス、基本料金が1Gバイト当たり10セントであるから、例えば25Gバイトまでの12.95ドル契約をすると、その差はデータ保管だけで9.2ドル(12.95-25×15)となる。これは粗利70%強となり、これにデータ転送費用が加わったとしてもかなりの利益率であることは間違いない。

このシステムを考え出したのは、元マッキンゼーのグレゴール・ゲンティル(Grégoire Gentil)氏(現CEO)とAppleでオリジナルMacintoshのマーケティング担当だったアラン・ロスマン(Alain Rossmann)氏だ。ZonbuはLinuxの初期ユーザー向け製品だ。これらの層を取り込むための携帯電話型ビジネスモデルが成功するか否かは、製品の出来と出荷台数にかかっている。


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森 洋一(もり よういち)
森洋一ポートレート写真IAF Software, Inc. Partner。米国シリコンバレー在住。明治大学卒。日本ユニシス入社後、金融機関向けリアルタイムシステムの設計と開発、流通マーケティング/オープンシステムマーケティングなどに携わる。2002年に退社。シリコンバレーにオフィスを開設し、テクノロジーリサーチャー/コンサルタントとして活動。著書に『オープンシステム・ウォーズ』『シリコンバレーからのメッセージ』(ともにオーム社)があるほか、雑誌、新聞などにも数多く寄稿。株式会社インプレスR&D シニア・アナリスト。