FSV #12 ナップスターから生まれ落ちたSNOCAPのビジネス

from Silicon Valleyティザー画像

米国企業IT戦略レポート~フロム・シリコンバレー

森 洋一(テクノロジーリサーチャー)

シリコンバレー在住の森洋一氏による、米国企業を中心としたITビジネスとテクノロジー戦略の最新レポート。オープンソース、マイクロソフト、エンタープライズといったテーマについて現地の視点から考察していきます。

今回は、音楽データ違法コピーの代名詞となり、P2Pのマイナスイメージを作り上げたナップスターの再生と創業者の再出発について。


元ナップスター(Napster)を興したショーン・ファニング(Shawn Fanning)氏と仲間が立ち上げたデジタル・レジストリ・ビジネス(Digital Registry Business)のSNOCAPが軌道に乗り始めたようだ。

ナップスターの創業者ショーン・ファニング氏。 ナップスターの創業者ショーン・ファニング氏。
This is a file from the Wikimedia Commons.

ノース・イースタン大学の学生だったショーン・ファニング氏が、大学内のネットワークで仲間と音楽を共有するために作ったソフトウェアがP2P(ピア・トゥ・ピア:Peer to Peer)の始まりである。ビジネスとしてナップスターを興したのは1999年9月のこと。

ユーザーは仲間と共有する意思がある音楽ファイルをナップスターのサーバーに登録し、サーバーが音楽ファイルと所有者のリストをまとめて管理する。ファイルをダウンロードしたいユーザーは、同社のサーバー上のリストから欲しい音楽ファイルと所有者を検索し、専用ソフトウェアを使って所有者から直接ダウンロードする。これが若者をトリコにしたP2Pシステムの仕組みである。

しかし、ユーザーの大部分は、彼らの技術を正しく使わず、実際のファイル交換の殆どが著作権を無視、同社はその年の12月に全米レコード協会RIAA(Recording Industry Association of America)から訴えられた。

ナップスターのその後の変遷は厳しかった。

2001年3月に暫定敗訴となり、その後の交渉もむなしく、同年7月シャットダウン。2002年6月に破産、その資産はCD書き込みソフトウェア会社のロキシオ(Roxio)が買収した。翌2003年10月、ロキシオはナップスターの資産を使って、法に準拠したサブスクリプションと有料のオンライン・ミュージック・サービスを立ち上げた。これは実際にはP2Pではなかったが、専用のクライアントソフトを使って試聴後、専用サーバーから有料でダウンロードするため「ナップスター2.0」と呼ばれた。今日隆盛を誇るApple iTunes Storeがスタート(2003年4月)した半年後のことである。

2006年秋には日本版もスタートさせたナップスター。 2006年10月には日本版もスタートさせたナップスター。

1年後の2004年、ロキシオはナップスター2.0が500万曲を販売したと発表、徐々に売り上げを伸ばして2005年にはナスダックに上場するまでに成長した。その後、親会社のロキシオは2004年8月、コンシューマ向けソフトウェア部門をソニック・ソルーションズに売却し、社名をナップスターと改名して現在に至っている。

このような状況の一方で、2002年、SNOCAPが設立された。

当時まだ21歳であったショーン・ファニング氏は、何人かの仲間とナップスターが抱えていた問題を解決し、何とかP2Pを継続することを考えていた。レコード会社やアーティストがダウンロードを許してくれ、かつ彼らがそのまま著作権を保持するためにはどうすれば良いか。新会社の名前はすでに「SNOCAP」と決まり、ベンチャーキャピタルも資金供給を約束してくれていた。

紆余曲折の結果、2005年6月になって、やっとたどり着いた仕組みが「デジタル・レジストリ」である。この方法では、アーティストが自分で販売したい音楽を登録し、著作権を保持したまま販売する。配布は同社のサーバーからでもP2Pでも構わない。つまり、アーティストとユーザーを直接結ぶオンラインのエンド・トゥ・エンド・ビジネスである。もちろん、中小の独立系レコード会社が保有音楽を登録することもできる。再生には指定されたDRMの搭載プレイヤーが必要だ。この議論で活躍したのはファニング氏が最初に雇った元ナップスターのシニア・テクノロジー・ディレクターのアリ・アイダー(Ali Aydar)氏であり、氏が現在のCOOである。

大手音楽レーベルとの提携を次々と成功させたSNOCAP。 大手音楽レーベルとの提携を次々と成功させたSNOCAP。

デジタル・レジストリには、3つの方法がある。

「SNOCAP MyStore」は、SNOCAPサイト内に自分の店を出し、アーティストは自分たちの音楽をアップロードさせ、価格も自由に設定、SNOCAPの取り分は一律である。2つ目は「SNOCAP Linx」、これはレジストリを登録し、実際の音楽ファイルはレコード販売会社のサーバーにあって、それらをシームレスに連動させて提供する。3つ目が「P2P Plug-in」だ。これはSDKとして提供されるDLLやAPIを使用し、開発者はSNOCAPとインターフェイスを取りながら自由にシステムを作ることができる。この場合もレジストリはSNOCAPを使い、実際の音楽ファイルはP2Pで転送される。いずれのサービスもフィリップスからライセンスされているデジタル音声指紋技術で合法性を確保し、アーティストとユーザーを直接結ぶエンド・トゥ・エンドのP2Pコンセプトが生かされている。

昨年夏、アリゾナのローカル・バンド「The FORMAT」と組んでMyStoreのテストを開始した。結果は瞬く間に1,000ダウンロード販売に達し、この成功を受けて、昨年9月にはMySapce.comが提携を申し込み、今年1月には独立系レコード会社が共同で立ち上げたライセンス管理のMerlinとも提携した。6月末には英EMI Musicも加盟し、MyStoreから直接DRMフリーの音楽を販売することとなった。続いて、音楽やビデオのSNSのimeem.comも参加を決め、独立系レーベルや個人ミュージシャンの音楽300万曲をレジストリに登録、imeemのユーザーは無料、ミュージシャンには広告収入から報酬が支払われるサービスを開始した。

今までオンライン・ミュージックの著作権問題は難航してきた。

しかし、iTunesを始め多くのオンライン・サイトができ、レコード会社も有力な販売チャンネルとして認識し始め、さらにDRMフリーの動きも顕在化してきた。SNOCAPのレジストリは、これらを取りまとめて大から小までをポータル化する。やっと時代が巡ってきたようである。


「米国企業IT戦略レポート~フロム・シリコンバレー」記事一覧

森 洋一(もり よういち)
森洋一ポートレート写真IAF Software, Inc. Partner。米国シリコンバレー在住。明治大学卒。日本ユニシス入社後、金融機関向けリアルタイムシステムの設計と開発、流通マーケティング/オープンシステムマーケティングなどに携わる。2002年に退社。シリコンバレーにオフィスを開設し、テクノロジーリサーチャー/コンサルタントとして活動。著書に『オープンシステム・ウォーズ』『シリコンバレーからのメッセージ』(ともにオーム社)があるほか、雑誌、新聞などにも数多く寄稿。株式会社インプレスR&D シニア・アナリスト。