FSV #08 Web 2.0の新技術(2) 続々と登場するハイブリッド・アプリケーション

from Silicon Valleyティザー画像

米国企業IT戦略レポート~フロム・シリコンバレー

森 洋一(テクノロジーリサーチャー)

シリコンバレー在住の森洋一氏による、米国企業を中心としたITビジネスとテクノロジー戦略の最新レポート。オープンソース、マイクロソフト、エンタープライズといったテーマについて現地の視点から考察していきます。

今回は、Web 2.0の新技術を紹介するシリーズの2回目は、既存のウェブアプリケーション/ウェブブラウザーの枠を超える機能を実現するハイブリッド・アプリケーションについて。


ウェブブラウザー上でリッチユーザーインターフェイスとオフライン処理を実現させる技術

Ajax(Asynchronous JavaScript + XML)がWeb 2.0の核技術だともてはやされて久しい。

そして次に、注目を浴び始めているのがハイブリッド・アプリケーション(Hybrid Application)だ。

図1 Googleノートブック。
図1 Googleノートブック。

Ajaxがウェブの画面をJavaScriptのインタラクションで補完したのに対し、ハイブリッドはオンライン時のウェブの画面を保存、その後オフラインで取り出して処理し、再びオンラインに戻ったときに、あたかも継続していたかのごとくシームレスな処理を続けることができる。

2006年5月、Google Labsが「Googleノートブック」のベータ版を発表した。これは、ブラウザーにノートブックのアドオンを追加し、ウェブページ上で右クリックしてメニューから[メモを追加]を選ぶと、そのページ内容をオンラインメモとして保存できるサービスだ。

今年3月末には日本語などの多言語化も終わって正式版としてリリースされた。これを使えば、ウェブページ上でハイライトした部分やページ全体を保存したり、それらをGoogleアカウントを持つ仲間と共有することもできる。Googleノートブックでできるのはここまでだが、これでもやっと探し当てたウェブページがいつの間にか消えてしまったという経験を持つ身からは、URLだけでなくページ情報を保管するという意味で大きな改善であった。

図2 Firefoxの次期バージョンでも、オフライン用機能を実装する計画がある。
図2 Firefoxの次期バージョンでも、オフライン用機能を実装する計画がある。

さて、次は当然、保存したウェブページを呼び出して、何か続きができないかと考えたくなる。Googleが絶大な肩入れをしているMozillaでは、次期ブラウザー「Firefox 3.0(開発コード名:Gran Paradiso)」で、オンライン時に「Local Data Store」へ保存したウェブページをオフラインで呼び出して処理させる計画を持っている(図2)。これが実装できるとウェブメールなどのアプリケーションがハイブリッド化され、出張中のオフライン時でも仕事ができる。次期版ではまた、HTMLだけの現在のウェブからWHATWG(Web Hypertext Applications Technology Working Group)が進めているオブジェクトやイベントの標準化案「Web Applications 1.0」をインプリメントし、次世代ウェブへ向けた対応も予定されている。

その後、6月に入って、Googleはオフライン・アプリケーション用のAPI「Googel Gears」を発表した。ただFirefox 3がこれに対応するかどうかは年内リリースとの兼ね合いで微妙である。Google Gears APIにはアプリケーションのキャッシングのための「LocalServer」、非構造化データを扱うSQLiteベースの「Database Module」、マルチスレッドのバックグラウンドでスクリプトを実行する「WorkerPool」があり、同APIを利用したオフライン対応RSSフィードリーダー「Google Reader」が同日公開された。

Ajaxを多彩に適用したEメール・システムのZimbraからは、3月25日にハイブリッドで動作する「Zimbra Desktop」のアルファ版がリリースされている。クライアント・ソフトにはZimbraサーバーと同期しながらオフライン処理をするミニデータベースApache Derbyが必要となる。今年夏以降に予定されているベータ版では、POPやIMAPサーバーとも連動し、また、主力製品「Zimbra Collaboration Suite」の次期版には標準搭載となる予定だ。

脱ウェブブラウザーの可能性を示すAdobeの「AIR」

3月19日、AdobeがWebとデスクトップを結び付ける「Apollo」(開発コード名)のアルファ版を引っさげ、3月23日にはJoyentが「Slingshot」サービスを発表した。

図3 Apolloのデモとして披露されたeBay Desktopアプリケーション。
図3 Apolloのデモとして披露されたeBay Desktopアプリケーション。
※画像提供:アドビ システムズ株式会社

実は「Apollo」が始めてその姿を見せたのは今年1月末、パーム・デザートで行われた「Demo 2007」カンファレンスだ。ApolloはHTML、JavaScript、Ajax、AdobeのFlash/Flexなどの技術を使ってデスクトップ上にRIA(Rich Internet Application)を作り出す。デモではオークション・サイトのeBay用に作成された「eBay Desktop」が使われた(図3)。このアプリケーションをクライアントPCにインストールし、eBayを呼び出す。すると、いつも見慣れたブラウザー上のeBayはこのアプリケーションに乗り移って動き出す。たとえばオークションに出品されている商品をドラッグ&ドロップで、Apolloで作成したウォッチ・リストに追加したり、そのリストを価格順に並べ変えたり、それらをExcelファイルに変換することもできる。もちろん、オフラインでFlashを使った動画のオークション商品を作成し、Apolloの自動認識でオンライン接続が確認されると、その内容を送信して同期化することも可能だ。Apolloは、簡単に言えば流行のウィジェット/ガジェットの大型版と言ってもよいだろう。そしてAdobeは、6月11日、正式名称を「AIR(Adobe Integrated Runtime)」と変え、ベータ版をリリースした。

図4 JoyentのSlingshotサービス。
図4 JoyentのSlingshotサービス。

一方、中小企業向けオンライン・コラボレーションを手がけるJoyentの「Slingshot」サービスは、「Ruby on Rails」ベースのアプリケーションをオンラインとオフラインで共用する(図4)。基本となる仕組みはRubyアプリケーションをデスクトップからドラッグ&ドロップでSlingshotのプラットフォームに移して実行し、この逆に戻したりすることでハイブリッド機能を提供する。同サービスのすばらしい点は、既存アプリケーションがRubyであれば、そのまま実行できることだ。

これらウェブアプリケーションのハイブリッド化への試みは今始まったわけではなく、サン・マイクロシステムズは「Java Web Start(JWS)」として以前から取り組んでいたし、また、最近ではPramati Technologiesのソシアル・シェアリング「Dekoh」ベータ版、ハイブリッド機能をブラウザーのオフライン処理機能で展開する「Scrybe」ベータ版なども出て、どんどん増える傾向にある。

この技術が確立できれば、オフラインでも困らず、またブラウザーは必ずしも必須ではなくなって、Web 2.0はさらに新しいパラダイムに踏み出すことができる。


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森 洋一(もり よういち)
森洋一ポートレート写真IAF Software, Inc. Partner。米国シリコンバレー在住。明治大学卒。日本ユニシス入社後、金融機関向けリアルタイムシステムの設計と開発、流通マーケティング/オープンシステムマーケティングなどに携わる。2002年に退社。シリコンバレーにオフィスを開設し、テクノロジーリサーチャー/コンサルタントとして活動。著書に『オープンシステム・ウォーズ』『シリコンバレーからのメッセージ』(ともにオーム社)があるほか、雑誌、新聞などにも数多く寄稿。株式会社インプレスR&D シニア・アナリスト。